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北パキスタンの桃源郷

2006年3月13日(月) 16時11分(タイ時間)

第34号(2004年3月25日発行)掲載

“春のフンザは花が咲き乱れてとても綺麗です”

 古くからの旅行仲間の女性からこんなメールをもらった。北インドで次に写真を撮りに行く場所を決めかねていた僕は、早速荷造りを始めた。デリーからバスを乗り継ぎ北パキスタン・フンザ地方の中心地カリマバードに着いたのは、1週間後のことだった。マイクロバスからカリマバードのゼロポイントに降り立った僕は雄大な景色に思わず息を飲んだ。標高7,816メートルのラカポシが雪に覆われ、渓谷の間に緑が広がりインダス川の支流フンザ川が流れている。残念ながら花が満開のシーズンに間に合わず新緑が始まっていた。どこまでも青く澄み渡る空、雪に覆われたヒマラヤ、新緑の広がる斜面に点在する村……。素晴らしい自然のコントラストにしばし目をうばわれた。

 カリマバードからアルチット村へ未舗装の砂地の道を斜面に沿って歩く。緩やかな坂道を日影で何度か休みながら2キロほど坂を下ると、村の入り口に到着した。ゲートの周りにはちょうど良い日陰があり、村の老人達が15人ほど集っていた。村に入ろうとすると老人達から声をかけられた。フンザ地方の人は友好的で、道ですれ違う時に必ずといって良いほど声をかけてくれる。イスラム教の巡礼者に対するもてなしの考えなのであろう。

 村の入り口で遊んでいる子供達の写真を撮って村の周りの道を歩いていたら、石垣の上から女の子が家に遊びに来ないかと声をかけてきた。上手な英語で村の入り口からではなく果樹園を通って行けば家に入れることを教えてくれた。石垣伝いに進んで果樹園に入ると女の子が家の門を開けて待っていてくれた。中庭に案内してもらい木の板で作ったステージの上でお茶をいただいた。しばらくするとお母さんが部屋から出てきて、栽培しているチェリーやアンズをご馳走してくれた。

 子供達と一緒に果樹園で撮影をしていたら、ちょうど下校時間なのか、青い制服を着た小学生が学校から出てきた。皆外国人が珍しいのかあっという間に僕を取り囲んでしまった。男の子達は服装や持ち物に興味があるのかどんどん集ってくる。女の子達は遠くから見ているだけだったが、恥ずかしそうに近づいてきた。

 サッカーをしたり歌を歌ったり、心配して見に来た先生も一緒になって山の斜面が暗くなるまで遊んだ。最後に仲良くなった子供達と記念写真を撮ってゲストハウスまで歩いて帰ろうとしたが、ちょうどその時、帰る方向にトラクターが来たので乗せてもらった。本当に親切で素朴な人が多いこの地方にまた行きたい。

■フンザ:パキスタン北部カラコルム山脈山中にある渓谷をフンザと呼び、中心地はカリマバード。ポプラの木と小麦畑の広がる標高2,500メートルの土地は1974年までミールと呼ばれる藩王が支配する独立国であった。不老長寿の桃源郷で知られるこの渓谷はラカポシ、ウルタル山がそびえている。村は山の斜面に造られ「風の谷のナウシカ」のモデルの一つになっているという。
《newsclip》