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山岳寺院と階段井戸 インド・グジャラート州

2006年8月12日(土) 10時53分(タイ時間)

 11世紀に始まるイスラム勢力の侵攻は、それまでインドで信仰されていた諸宗教に大打撃を与えた。偶像崇拝を否定するイスラム教徒によって無数の寺院が打ち壊され略奪された。やがてイスラム政権が樹立されると、イスラム教徒は急速に増え、インド独立時に、イスラム教徒の多い地域は東西パキスタンとして分離独立したとはいえ、未だ1億を超すイスラム教徒がインドで暮らしている。今日の宗教間のトラブルは主にこのイスラム教徒とヒンドゥ教徒の間で起きている。

 西方からやって来たイスラム勢力といち早く接触した地域に、インド西部のグジャラートがあげられる。グジャラートには、2つの特異な建造物がある。山上に築かれたジャイナ教寺院と地下に広がる階段井戸だ。


 商人層に信者が多いジャイナ教は、信者の数のわりには立派な寺院をもっていて、現在グジャラートでもあちこちで寺院を見かける。古くからの有名寺院の一部は山上に造られている。山上の高台は神のためにささげられるという山岳信仰がその主な理由だが、イスラム教徒の攻撃を出来るだけ回避したいという意味合いもある。その典型的な例がシャトルンジャヤ山のジャイナ教寺院群だ。ここは幾度もイスラム教徒の攻撃を受けたため、現存の寺院群は16世紀以降の建立が多い。標高差600メートル、3000段を超える階段を登ってはじめて、壮麗なジャイナ教寺院群にお目にかかれる。

 早朝シャトルンジャヤ山の麓を訪れると、椅子に信者を乗せて山上まで担ぎ上げるための人夫達が待ち構えていた。老人や肥満体、金持ちの信者がこれを利用する。肥え太った金持ちが痩せた人夫達に担がれている姿は、功徳を積むためにお参りしているというより、自分で地獄への扉を押し開けているようだ。約1時間半の登りを終えて到達した山上では、頑丈な壁によって9つの場所に分けられたジャイナ教寺院群の景観を堪能できる。写真では寺院群の一部しかお見せできないが、麓から山上を見ただけでは、これほどの寺院群が建てられているとは想像できない。

 山上の寺院に対して地下に掘り下げられた階段井戸は、雨の少ないグジャラートでは重要だ。階段井戸は水を得るためだけでなく、人々がここで涼をとるための憩いの場所でもあった。井戸の底にいたる階段状のスロープをつくり、そこかしこに休憩所を設け、壁や柱を多種多様な彫刻で飾った。まるで地下宮殿を見ているようだ。


 しかし、人々が生きるために必要なこの階段井戸にまで、ヒンドゥ教とイスラム教の軋轢が影を落としている。イスラム教徒がインドに侵入する以前の階段井戸にはヒンドゥ教の神々や女性像がふんだんに彫刻されていた。しかし、偶像崇拝を否定するイスラム教徒によってこれらの井戸の多くが傷つけられてしまった。後にイスラム政権が樹立されてからは、彼らも階段井戸の重要性を認め、イスラム風の文様を描いた階段井戸をつくった。ちなみに「王妃の階段井戸」と呼ばれるグジャラート最大の階段井戸には、無数のヒンドゥ教の神像や女性像が残っているが、これはイスラム教徒に壊される前に土砂の堆積によって地中に埋もれてしまい、近年になって発掘修復されたものである。
《newsclip》