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カラッシュ渓谷 パキスタン

2006年9月14日(木) 22時15分(タイ時間)

Kalash Valleys, Pakistan

 ベットに座って読んでいた本から目を上げると、窓の向こうからアビグルの緑色の目がこちらをのぞいているのが見えた。この部屋は彼女の家族が営んでいる宿の2階の一番奥で、部屋の前の広いテラスからすぐ向かいにある石造りの家々でカラッシュの人々の生活がよく見える。

 大きな木々に囲まれ一日中木漏れ日の中で風の音を聞きながらのんびりできるこの村を僕はすぐに気に入った。パキスタン人が避暑に訪れるだけあってとても涼しく、外国人は僕一人だけで快適だった。すぐ近くに水車小屋があり、忙しいときは夜遅くまで水を引き臼を引く音が聞こえるが、僕の部屋の下の穀物倉庫はいま空っぽなので今日は木の実の収穫だろう。

 テラスにある縄のベットを木陰に運んでアビグルの母親が作った朝食を食べる。部屋の値段を交渉した時に食事のリクエストとチャイの飲み放題をお願いしてあった。食事のカレーはオクラ、ジャガイモ、豆がこの順番で一品だけ。ナンのようなカラッシュブレッドは食べ放題だが、中に入っているのがクルミばかりでそろそろ飽きてきた。この村で他に食事が出来る所は無く、部屋の暖炉でお湯を沸かし、チトラールで買っておいたインスタントラーメンをこっそり食べる夜もあった。しかし、滞在が2週間を過ぎる頃から、昼食と夕食を彼らの自宅で一緒にとるようになり、すっかり待遇が良くなった。

 昼過ぎ。部屋のテラスからすぐ下の村の広場に村人が集まってきた。子供達が大きな布を広げ、男達が大きな木に登り枝を揺らし始める。沢山の木の実が落ちてきた。女性達が布に落ちた実を集める。どうやらこの辺りの木の実をすべて集めるようだ。そうこうするうちに、僕の部屋の前にも人が集まって収穫を始めた。この時とばかりに、普段恥ずかしがって近づいて来なかった小さい子供達が僕の部屋に入ってきた。大人達は収穫で忙しく誰も注意する人がいないので、僕の部屋で勝手に遊んでいる。

 僕は子供達と川の上流へ遊びに行くことにした。アビグルを先頭に川沿いの農道をゆっくり歩く。学校で習った歌を上級生が歌い小さい子がそれに続いた。村でも英語が話せる人が何人かいるが、僕が村に着いた日に会ったきり。他の村人とはウルドゥ語で話さなければならなかったが、子供達には全然通じない。それでも女の子達は僕がテラスで本を読んでいる時など勝手に僕の髪を三つ編みにしてくれる。男性は短髪に髭が当然のこの辺りで長髪の日本人は子供達にとっても異色の存在のようだ。

 ある日、祭りがあると聞いて行ってみた。この村の近くの岩山の上に広場があり、近所の若者が夕方から集まって歌やダンスをしている。若い男女の出会いが目的のようで、外国人の僕が輪の中に入れるような雰囲気ではなかった。しかし、少しでも祭りに参加したことで、近所の村に遊びに行った時なども知らない人が声をかけてくれるようになった。

 居心地が良く滞在予定日を大幅に過ぎてしまった。仲良くしてくれた人達にチトラールに行くことを伝えると、本当に残念そうに暖かい言葉をかけてくれた。撮影した家族の写真を次に遊びに来るときに持ってくることを約束して不定期に来るジープを部屋の前の広場で待ったが、街へ行くジープが来たのは3日後のことだった。

【Kalash Valleys について】
チトラール南部の谷間にすむカラッシュ族の村でRambur、Bumburet, Birirの3つの谷に住んでいる。女性の服装が特徴的で、足まで隠れる黒い服に刺繍があり、首にたくさんのビーズの首飾り、頭には貝殻やコインで飾られた帽子のようなものをのせている。長い髪の毛は5本の三つ編みで纏められ、おでこの上の一本は右側の耳にかけている。イスラム教ではなく多神教を崇拝しているので、異教徒の国という意味でカリフィスタンと呼ばれている。
《newsclip》