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タイ軍政が新憲法草案公表、エリート支配復活に重点

2007年4月20日(金) 04時28分(タイ時間)
【タイ】タイ軍事政権が作成した新憲法草案が4月19日、公表された。上院を任命制に戻すなど、政党、一般国民の政治参加を制限し、エリート層によるコントロールを強化する内容で、比例代表制、上院公選制などを導入した97年憲法以前の状態への「先祖帰り」といった印象が強い。軍政は世論の反応をみて草案に調整を加え、9月に国民投票にかける予定だ。

 タイで初めて国民主体で起草された97年憲法は、比例代表、小選挙区の導入で2大政党制を目指すと同時に、それまで任命制だった上院を公選制とし、国政参加には選挙の洗礼を受ける必要があると規定した。昨年9月のクーデターを起こした勢力は、選挙で選ばれたタクシン前首相を軍事力で追放した以上、97年憲法の原則は当然受け入れず、新憲法は、政党政治の弱体化、エリート支配の復活を狙ったものとなった。

 草案の骨子は、▼上院は憲法裁判所長官、選挙委員会委員長らが選出する任命制で定数160(97年憲法では公選制、定数200)▼下院は地域別比例代表80、中選挙区320の定数400(同500)▼国政選挙の立候補資格として選挙の90日前から同一政党に所属することを義務付けた規定を30日に短縮▼首相は下院議員から選出し、任期は連続2期8年まで??など。 

 上院の任命制は、裁判官らが上院議員を、上院が裁判官、選挙委など独立機関幹部を指名し合うシステムを構築し、軍幹部、高級官僚といった「良識ある」エリート層が選挙を経ずに国政に参加できるようにすることが狙い。一方、中小政党が乱立する状況を作り出すため、小選挙区と比例代表を廃止、国会議員の所属政党移籍を容易にする。さらに、地域別比例代表の導入で、人口が最も多く、過去十数年、選挙のカギを握った東北部の発言力を殺ぐ。5月末に予定されている選挙違反裁判の判決で愛国党、民主党の2大政党が解党されれば、政党政治の弱体化は確実となり、エリート支配を揺るがす強力な政党の誕生は当面避けられる見通しだ。

 タイでは軍事政権が長く続いた後、80年に、軍、官僚組織、政党の支持を受けたプレム元陸軍司令官(現枢密院議長)が非議員首相として統治する「タイ式民主主義」が導入された。このシステムは88年に終えんし、その後は91—92年の軍事クーデター政権を除き、短命な連立民主政権が続いた。この間、任命制の上院では高級官僚、軍幹部らが議席の多数を占め、政治家との権力バランスを保った。しかし2000年に行われた97年憲法による初の総選挙でタクシン政権が発足すると、状況は一変。国会の議席数だけがものをいうシステムの中、タクシン首相(当時)は旧来の権力構造、既得権益に次々にメスを入れ、結果として昨年のクーデターを招いた。

 タクシン氏がクーデターの数カ月前からプレム枢密院議長との対決姿勢を明確にし、今もクーデターの黒幕としてプレム議長の名前が挙がるのは、政変の理由のひとつに、選挙中心の一般的な民主主義か、エリート層が国民を「善導」するタイ式民主主義かという政治システム闘争があったことを物語っている。エリート層の主張を平たく言えば、「ものごとをわかっていない東北部の貧しい農民に選ばれた首相が全権を行使するのは間違い」ということであり、そうした政権を生んだ97年憲法は失敗作となる。政争に勝利した勢力は当然のごとく、タクシン以前、97年憲法以前への復元に力を入れ、新憲法はその仕上げとなりそうだ。
《newsclip》