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タイ深南部従軍取材、テロ拠点の村へ

2007年10月22日(月) 21時57分(タイ時間)
【タイ】テロが続く深南部で、分離独立派の拠点の一つと見なされるヤラー県バンナンサター郡。銃撃、爆破、放火といったテロの頻発で、今年3月15日、夜8時から翌朝4時までの外出禁止令が発令された。ラマダン(イスラムの断食月)のため9月12日から10月21日にかけて、一時的に外出禁止令が解除されたものの、治安回復のメドが立たないため22日に再発令された。バンナンサター郡で陸軍レンジャー部隊を取材した。

—「赤色地域」の村—

 深南部で、テロが頻発する地域、テロ容疑者の潜伏が怪しまれる地域は「プーンティーシーデーン(赤色地域)」に指定される。ヤラー県バンナンサター郡で今回取材したタムボン(複数の村から成る行政区)バーチョは、テロ容疑者が数多く居住もしくは潜伏しているといわれ、構成する5つの村が全て「赤」。ここまで赤一色のタムボンは深南部といえども少なく、最も危険な地域の一つとされる。

 これまでの従軍は、陸軍広報から許可を受け、取材先の駐屯地に直接出向いていたが、バーチョへは個人行動が認められず、ヤラー県を総括するシリントン陸軍基地に赴き、警護の兵士3人に伴われて取材に向かうことになった。現地では迎えの陸軍レンジャー部隊がさらに警護に付くという厳重さだ。

 深南部ではテロ激化に伴って軍の再編が行われ、これまで鉄道警備、国境警備の任務を担っていたレンジャー部隊は、より危険な農村部で展開することになった。レンジャー部隊は陸軍の一部隊だが、1年ごとの志願制で、銃は軽量なM16やHK33などではなく、より破壊力の強いAK47シリーズを使用する。タイの各地から転勤してくる一般兵士と異なり、隊員のほとんどは地元出身。精鋭部隊ではあるが、粗暴というイメージも伴い、良くも悪しくも一目置かれる存在だ。タイ語の南部方言やマラユー語(深南部一帯で話されるマレー語の方言)を話すため、任地の住民に受け入れられやすい面もある。


テロ容疑者について説明する隊長

—テロの詳細地図—

 取材許可のために訪れた、レンジャー部隊詰所の隊長室の室内には、地域の詳細地図と、テロ容疑者の顔写真が所狭しと貼られていた。地域のほとんど全ての民家が地図上に示され、その上に身分証明書を作成するときに撮られた住民の顔写真が並ぶ。極秘と書かれたポスターには、テロ容疑者の顔写真。容疑の度合いによって、1つ星から3つ星までランクが分かれる。女性の写真も何枚か見られる。

 ここに貼られているテロ容疑者は、全て地元住民。「身元が判然としているのなら、なぜ捕まえないのか」と隊長に質問すると、「証拠が固まらない」。それでは戒厳令を敷く意味がないと問うと、「連行は出来るが拘束までは無理」という答えだった。


放火の焼け跡の前で検問

 これらのテロ容疑者はブレイン役であり、テロの実行犯とは異なる。村の役員などを引き受けるなど、政府関係者も少なくない。テロを撲滅する側にテロ容疑者が潜んでいることになる。向かいの壁には、深南部一帯のテロ容疑者の顔写真。2006年大晦日から2007年元旦にかけて起きた、バンコクでの爆破事件の主犯とされる容疑者の顔写真もあった。

—村を包囲—

 警戒中のレンジャー部隊の一分隊(9人)について、村を回る。行軍は道の両手に分かれて進む。走行中の車やバイクから攻撃されても、両側から応戦でき、片側にいたために全滅という危険がない。交差点に差し掛かると、それぞれの角に分かれて検問を設置。1—2人が車を止めて職務質問し、後ろ側で2—3人が警戒に当たる。取材中に検問が設置された三さ路のわきには、放火で焼け落ちた民家が残っていた。

 村に入る際は、通りがかりの民家の玄関口で住民とあいさつを交わし、良好な関係の構築・維持に努める。日常勤務の延長線でテロ対策に当たる警察には、このような巡回任務はない。取材で知る範囲では、軍より警察の方が住民の受けが良く、より協力的といえる。

 取材で村を巡回中、「分離独立派メンバーが村にしのびこんでいるらしい」との通報で、警察部隊による村の包囲が始まった。包囲網の中にいたレンジャー部隊も、あいさつしていた玄関口から裏手に回って林の中で警戒態勢についた。シリントン駐屯地から同行していた陸軍兵士が「、危ないから着用するように」と、車内から防弾チョッキを取り出した。結局、「逃げたらしい」という判断で、警察は30分ほどで封鎖を解除、レンジャー部隊もそのまま行軍を再開した。


行軍中に通りがかった民家の住民にあいさつ

 深南部ではさまざまな分離独立派が存在するといわれるが、今回の封鎖を振り切って逃げたのはRKKだという。RKKは最近良く耳にする名称で、Runda Kumpulan Kecilの略、「実行小集団」とも訳される。組織名というよりは、テロ実行犯の総称に近い。これまで主流派だったパタニー統一解放組織(PULO)の名は、ほとんど聞かなくなっている。そもそも分離独立派は、「どれをとっても有名無実というべきか、あるかないかの存在。その意味でいうと、我々は誰と戦っているのか分からない」(陸軍第4軍管区広報)。

 深南部のテロ拠点というべきヤラー県バンナンサター郡も1年以内に、テロを撲滅し再発させない「ムーバーン・サンティスック(平和な村)」に指定されるという。実際テロ容疑者の多くが村から抜け出し、他地域に拠点を構え始めているという。軍は今後も、「彼らが築く拠点を破壊し、逃げたら追って新たに築く拠点をまたもや破壊する。これを繰り返して平和な深南部を取り戻す」(同広報)としている。


警察の村包囲で同様の警戒態勢を採るレンジャー部隊
《newsclip》