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ヴィシュヌプルのテラコッタ寺院

2009年5月15日(金) 13時07分(タイ時間)

 西ベンガル州の大都市コルカタ(カルカッタ)は、インドの東の玄関口だ。タイからインドへ行く時、コルカタ行きの航空券が一番安いためか、若い個人旅行者をよく見かける。なかには、あまりの猥雑さ、衛生観念の違い、インド人のしつこさに辟易して帰ってしまう人もいる。そうかと思うと、ここに居ついて、観光気分でボランティアごっこにはしる者もいる。しかし、多くの旅行者は、この州を旅することなく、よその州に行ってしまう。


 コルカタ西部には豊かな平野が広がり、西北に約150キロ行った所にヴィシュヌプルという田舎町がある。快適さとは対極にある道路事情で、車をチャーターできない場合、ローカルバスに約5時間揺られて行くしかない。そして、やっとごみごみした町中の広場のような汚いターミナルに到着する。ベンガル地方の農村風景を堪能できるのはいいが、狭く硬い座席に、絶えず乗り降りする人達ですし詰めで、かなりキツイ旅になる。



 ヴィシュヌプルは、もともと8世紀にまで遡る地方政権マッラ王朝の首都だったが、実際に領土を拡張し、繁栄をおう歌するのは、16世紀に入ってからである。土地柄、良質の石材に恵まれなかったこの地方には、古い王朝があったわりには見るべき建造物を残さなかった。しかし、16世紀に王朝の勢いが増してからは、レンガ造りやラテライト造りのヒンドゥ教寺院が、多数建造されはじめる。時あたかも16世紀に始まったヒンドゥ復興主義が、ベンガル各地に流行していた時代だ。ヴィシュヌプルには、現在17世紀から18世紀にかけてのヒンドゥ教寺院が30棟ほど残っている。


 寺院は、池や湖に囲まれた町中や、ひと気のない郊外に点在している。しかし、ここはあくまでインド。誰もいないと思っていても、何処からともなく人がわき出てくる。おまけにいたる所、ゴミは投げ捨てられ、人や家畜の排泄物が目につく。まあ、それらに目を閉じれば、建物自体は遺跡の雰囲気を漂わせて美しい。




 レンガやラテライト造りの寺院は、インドでも珍しくないし、東南アジアではよく見かける。普通これらの部材を使った建築物は、装飾として漆喰を用いる。ところが、ここの特色は、ラテライトの建物には漆喰装飾を用いているが、レンガ造りの寺院には、粘土に彫刻を施して焼いたテラコッタをパネル状に貼り付けて、寺院の壁面を装飾している点だ。




 もう1つ、変わったところと言えば、屋根の形だ。この地方の民家は、雨季の豪雨に備え、屋根の四方が垂れ下がった形をしている。これは雨水をいち早く流し落とすためだ。この屋根の形が寺院建築にも用いられ、独特の形となった。後にベンガル地方を征服したイスラム政権のムガル朝により、西方に伝えられ、首都デリーや西インドのイスラム建築にその影響を与える。さらに、ほとんど雨の降らない砂漠地帯に住むラージプート族の宮廷建築にも、取り入れられる事となった。


 はるか西方の中世に建てられた教会建築を連想させるシャーマ・ラーヤ寺院。民家の屋根を巨大化させて、そのまま乗せたようなケシュタ・ラーヤ寺院。モチーフの多くをクリシュナ神説話からとったテラコッタで壁面をくまなく覆ったマダナ・モハーナ寺院。この3つの寺院は、ヴィシュヌプルの数ある建造物の中でも特に人目を引く。


 およそ200年の間、花開いたヴィシュヌプルだが、18世紀末には、マーラタ軍の侵略を受け、19世紀はじめには、イギリス東インド会社によって領土を他の地主に売り飛ばされてしまった。そしてインドらしい猥雑さは相変わらずだが、注目をあびることもない寂れた田舎町になってしまった。
《newsclip》


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