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バンコクの強制排除取材 目前で外国人記者撃たれる

2010年5月20日(木) 10時18分(タイ時間)

【タイ】19日早朝から始まったタイ治安部隊によるタクシン元首相派団体「反独裁民主戦線(UDD)」の強制排除は約7週間続いたバンコク都心部ラチャプラソン交差点での集会を散会させた。しかし、「降伏」に怒ったUDD支持者が暴徒化し、ラチャプラソンに建つ東南アジア最大級のショッピングセンター(SC)、セントラルワールドにコンクリ片、爆発物、ガスボンベなどを投げ込んで放火、発砲。セントラルワールドは炎上し、暴動はその後、バンコクの各地に広がった。「微笑みの国」が炎の中の消えた歴史的な1日を現場で取材した。〈文・写真:齊藤正行〉

 ルムピニ公園前のシーロム交差点に治安部隊の装甲車が現れたのが早朝5時。治安部隊はUDDが退却しながら火を放った古タイヤのバリケードを消火しつつ、ラチャプラソンに向かいラチャダムリ通りを徐々に北上した。UDDは火炎ビン、スリングショット、花火やかんしゃく玉といった爆発物で応戦するが、ゴム弾や実弾の銃には歯が立たず、「抵抗は止めよう。何をやっても敵うわけがない」と仲間同士で言い合う場面が見られた。ただ、テロリストのレッテルを貼られた「黒服部隊」がUDDと連携し、軍用の大型爆弾を投げつけ、治安部隊を足止めさせた。

 30分から1時間の交戦、同程度のインターバルといったパターンを繰り返し、UDDはじりじりと追い詰められていった。それまでシーロム交差点からの発砲のみだったのが、ラチャダムリ通りに隣接するルムピニ公園からも弾が飛んでくると混乱に陥り、誰もが逃げ惑った。

〈数歩の差、外国人ジャーナリスト撃たれる〉

 治安部隊の立て続けの発砲に思わず後退すると、今度は90度の角度からゴム弾が飛んできて、目の前で跳ね返った。「競馬場(ロイヤルバンコクスポーツクラブ)にも兵隊がいるから気をつけろ!」と誰かが叫んだのが聞こえる。元の場所に戻ろうと思わず振り返ると、後ろに続いてきた外国人ジャーナリストがバサっと倒れ、タイ人ジャーナリストが「手伝ってくれ!」と叫びながら助けようとする。倒れた外国人の腕を取ったが、ベッタリとした胸の血が腕に流れ落ち、ヌルヌルして力が入らない。一回だけうなり声が聞こえたが、半目のままで身動きしない。バイクで警察病院に運ばれていったが、後に死亡したというニュースを聞いた。

 銃撃戦を切り抜けラチャプラソンの集会場に戻ると、舞台では楽しげな音楽が流れていた。集会参加者がリズムに合わせて踊っていて、全くの別世界。ほとんどは女性で、小さな子供の姿もある。しかし、UDD幹部のナタウット氏が舞台に上がり、ガードマンに囲まれて涙を浮かべながら「赤シャツの歌」を3曲立て続けに歌うと、誰もが終りが近いと感じた。次いでもう1人の幹部のチャトゥポン下院議員が出てきて、「我々の仲間が次々と死んでいく」と話した。しばらくすると散会と幹部の投降が宣言され、ナタウット氏らは集会場に隣接する警察本部に姿を消した。

〈集会参加者が暴徒化、銃乱射〉

 これで3月12日から続いた反政府集会が終わったと思いきや、「降伏」に怒ったUDD支持者がいきなり暴徒と化した。舞台前にいた女性や子供は近くの寺院に避難、残った男たちがいたるところで放火を始める。爆発物やガスボンベを持ち出して火に放り込み、爆発音が鳴り響く。特に集会場に隣接するセントラルワールドが標的にされ、大火事となった。

 暴動を避けようと、いったん寺院に身を寄せたが、警察が報道陣の避難を受け入れたため、警察本部の敷地に逃げ込んだ。しかし、今度はUDD支持者が銃を乱射する音やグレネードランチャーの着弾音が聞こえはじめ、警官と一緒に身を伏せて地面をはいつくばるハメになった。

 UDD占拠地を通らずに警察本部から抜け出す出口は1カ所のみで、軍とUDDがにらみ合う緩衝地帯のど真ん中。「ここで夜を明かすか、無理して抜け出すか」と警官が笑って話しかけてきたが、タイミング良く電気工事の作業車が外に出るところだったので、連れのカメラマンと一緒に荷台に乗せてもらい、何とか安全な場所まで避難した。その時点では、治安部隊はUDDのしぶとい抵抗で足止めをくらい、ラチャプラソンにたどりつけていなかった。

〈炎上するバンコク〉

 こちらが九死に一生でラチャプラソンを脱出する中、暴徒化したUDD支持者は北のディンデン交差点、南のラマ4世通りなどで次々と放火を重ねた。標的となったのはセントラルワールドと並ぶ巨大SCのサイアムパラゴン、タイ証券取引所ビル、バンコク銀行の複数の支店など20カ所以上に上る。テレビ局チャンネル3があるマリーノンタワーやアソーク交差点といった日本人居住区の近くでも火の手が上がり、バンコクの空は黒煙に包まれた。セントラルワールドは夜になって激しく炎上し、建物が倒壊する恐れが出ている。

 バンコク都民はもとより、5万人ともいわれる在留邦人も夢想だにしなかったバンコクの暴動炎上。これは反政府デモの終わりなのか、それとも内戦の始まりなのだろうか。
《newsclip》

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