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タイ政府、深南部武装勢力と和平交渉 マレーシアが仲介

2013年3月1日(金) 00時59分(タイ時間)
【タイ】マレー系イスラム武装勢力によるテロが続くタイ深南部問題で、28日、武装勢力の一つであるBRN(パタニー・マレー民族革命戦線)の代表とタイ国家安全保障議会のパラドン事務局長(タイ陸軍中将)がクアラルンプールで会談し、和平交渉の開始を盛り込んだ合意文書に調印した。タイ政府が深南部の武装勢力と公式に和平交渉に乗り出すのは初めて。ただ、BRNが武装勢力全体にどの程度の影響力を持っているかは不明で、交渉開始後もテロが止まない可能性がある。

 今回の合意はマレーシア政府の仲介によるもので、調印式にはマレーシア政府の代表も同席した。マレーシア政府は今後の交渉にも調停役として加わる。パラドン事務局長によると、和平交渉はタイのインラク首相の兄のタクシン元首相がマレーシアのナジブ首相に働きかけ実現した。インラク首相は28日、クアラルンプールでナジブ首相と会談し、両首脳は会談後の共同記者会見で、和平交渉開始を歓迎する意向を示した。

 タイ政府はこれまで、深南部のテロを国内問題として武力で抑えこむ方針を取ってきたが、今回、マレーシアを仲介者として、武装勢力と公式な交渉に入ったことで、第3者を交え、政治的に処理するという方向へ大きくかじを切った。背景には、大量の兵士、警官を投入したにもかかわらず、テロが一向に収まらないという事情がある。また、汚職で実刑判決を受け国外逃亡中のタクシン元首相は深南部問題を解決して世論を味方につけ、恩赦、帰国を実現したいという狙いがありそうだ。一方、ナジブ首相は総選挙を控えており、和平仲介は外交で得点を稼ぐチャンスだ。

 ただ、深南部で実際にテロを行っている組織はこれまで「タイからの独立」「自治権獲得」といった要求を明らかにしたことがなく、正体は謎に包まれている。BRNがこうした組織に影響力を持っていなければ、「和平交渉」は絵に描いた餅となる。

 タイ国内の保守派の動きも注目される。タイは王国という性質上、深南部の自治区化=国土の分割と受け取られる傾向があり、インラク首相が首相就任前に深南部の自治区構想を持ち出した際には、タイ軍などが強く反発した。また、武装勢力の一部はテロ現場にマレーシアの国旗を残してマレーシアへの帰属意識を示しており、そのマレーシアが和平交渉に加わることへの疑念も浮上している。反タクシン派のアピシット前タイ首相は今回の交渉について、「マレーシアの役割は何なのか。これは非常に微妙な問題で、タイ政府は細心の注意を払うべき」と述べ、マレーシアに警戒感を示した。

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ナジブ首相(左)とインラク首相 (写真提供、タイ首相府)

〈タイ深南部〉
 マレーシアと国境を接するタイ深南部(ナラティワート県、ヤラー県、パタニー県の3県とソンクラー県の一部)には、もともとイスラム教徒の小王国があったが、約100年前にタイに併合された。タイ政府は同化政策を進めてきたが、現在も住民の大半はマレー語方言を話すイスラム教徒で、タイ語を話せない人も多い。タイ語、仏教が中心のタイでは異質な地域で、行政と住民の意思疎通が不足し、インフラ整備、保健衛生などはタイ国内で最低レベルにとどまっている。
 深南部のマレー系イスラム教徒住民によるタイからの分離独立運動は断続的に続き、2001年から武装闘争が本格化。2004年4月には、警察派出所や軍基地を襲撃した武装グループをタイ治安当局が迎え撃ち、1日で武装グループ側108人、治安当局側5人が死亡した。同年10月にはナラティワート県タークバイ郡で、住民の逮捕などに反発したイスラム教徒住民3000人が警察署前で抗議デモを起こし、治安当局による発砲などで7人が死亡、約1000人が逮捕され、逮捕者のうち78人が軍用トラックで収容先に移送される途中、窒息死した。両事件でマレー系イスラム教徒住民のタイ政府への反発は強まった。
 タイ政府は常時10万人以上の兵士、警官を深南部に送り込み、力で鎮圧を図ってきたが、現在も連日、銃撃、爆破、放火事件が起き、事態が改善するめどは立っていない。武装勢力と治安当局の抗争による死者は2001年からこれまでに約6000人に上る。
 今年2月5日にはヤラー県の民家に武装グループが押し入り、家の中にいた果物商の夫婦と男性2人の計4人を後ろ手に縛った上、至近距離からけん銃と自動小銃を発砲し、殺害した。4人は東部ラヨン県から果物の買い付けに来ていた。
 2月10日にはヤラーで武装グループがタイ陸軍の6輪トラックを爆弾と銃で攻撃し、タイ兵5人が死亡、1人が負傷した。武装グループは爆弾を仕掛けたピックアップトラックでジャングルの中の道路をふさぎ、タイ軍のトラックの接近を待ち、爆発させた。その後、道路脇に横転したトラックに自動小銃などで銃撃を加え、死亡した兵士から銃器を奪って逃走した。
 2月13日にはナラティワート県のタイ軍基地を約50人の武装グループが襲撃し、タイ軍との銃撃戦の末、このうち16人が死亡した。軍側に死傷者はなかった。
《newsclip》


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