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ASEAN経済統合体の発足&タイ生産拠点の新しい方向 ~分散型生産体制へ向けたサプライチェーン構築~

2014年7月9日(水) 13時20分(タイ時間)
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松島 大輔 氏
講師:松島 大輔 氏 タイ国家経済社会開発委員会政策顧問

「Asprova Asia Sdn Bhd,」「Data Collection Systems (Thailand) Co., Ltd.,」「Thai NS Solutions Co., Ltd.」共催セミナー
ASEAN経済統合の先に来る世界を予見 ~新しい世界で日系企業は何をすべきなのか~ 基調講演より

EUとは根本的に異なるAEC

 2015年に発足となるASEAN経済統合体(AEC)は欧州連合(EU)とよく比較される。AECというのは基本的に、「関税を撤廃して物の行き来をスムーズにする」協定。自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)など域内各国のこれまでの積み上げを統合する。一方のEUは通貨をも含んだ市場全体の統合であり、制度確立から始まっている。現場から始まったAECと、会議室から始まったEUは根本的に異なる。

 「本当に2015年に統合するのか」という質問がよく聞かれるが、これは愚問。実態として経済統合は進んでおり、進んでいるから各国政府がさらなる補完に乗り出している。その補完には、在ASEAN日系企業の要望が多分に反映されている。身近なところでは、商工会議所やジェトロなどからのアンケートへの回答。積極的に協力していただきたくことが、さらなるビジネス環境の改善に役立ち、日々の経済活動・ビジネス活動に直結する。

EUとは異なるAECのポイント

 上からの下への動きで始まった、統合ありきのEUとはさまざまな相違点がある。AECは1993年からのASEAN自由貿易地域(AFTA)を土台とし、2015年の発足を目指してきた。関税だけを見ればタイ、マレーシア、シンガポールなどは早い段階で撤廃を達成。一方のミャンマー、ラオス、カンボジアといったいわゆるASEAN新興国は、2013年の段階でも30%台の関税を残したまま。AECでは2018年までの全品関税ほぼ撤廃を計画しており、これに向けて進んでいるのが現状だ。このような状況からも、前述の「本当に2015年に経済統合するのか」という質問は的を得てないことが分かる。

 もちろん、その実効性に疑問は寄せられている。例えば日タイ経済連携協定(JTEPA)や日本・ASEAN経済連携協定のように、各国間・地域間ではさまざまな協定が「スパゲティボール問題」と呼ばれるように複雑に絡み合っている。原産地規制ひとつをとっても複数のフォーマットがあり、制度的には整備されていても適用に関しては大いに疑問だ。

 また、反動的保護主義と思われる言動もここにきて見られる。市場の自由化に反して強制規制導入、輸入ライセンス制度の運用強化、アンチ・ダンピング処置の発動増加など、非関税障壁を設けようとする動きだ。これはいわば、各国による経済的領土の先取り合戦、最後の分捕り合戦。制度が確立される前に自国の産業をできるだけ育てたい、という思いによるものだ。ASEAN自体が、周辺地域の市場自由化の動きに苛まされているという実情もある。

 国境を越えた人の動き、サービス分野の自由化は、まだまだ先の話だ。ただ、「製造業に随伴するサービス」に対しては積極的な自由化の動きが見られ、注目に値する。ASEANにとって、製造業は「金の卵」であり、「金の卵を産む鶏」。製造業をより活性化させる環境の構築には、製造業随伴サービスの自由化は不可欠という考えだ。

地理的優位性を保持するタイ

 AECはASEANにとどまらず、大メコン経済圏(GMS)を巻き込みながら、西はインド、東は中国とその先の日本、南はインドネシアを配した広大な地域に膨張していくであろう。その中でタイはやはり、地理的に中心的な優位性を保っている。GMS、特にインドシナ半島はASEANでも過去10年、貿易依存度が他地域より高まっている。その急激な成長が今後、AECの牽引力となっていくのは確かだ。

 タイはよくインドネシアと比較される。インドネシアは確かに、人口2億5000万人で中間層が台頭してくる重要な経済市場。だがASEANの生産拠点、サプライチェーンの構築を考えるとやはり、タイを含むインドシナ半島のポテンシャルは高いといえる。

 一国の経済主義で考える時代は終わった。例えば最近はブームが下火になったミャンマー。AECという経済統合した地域で、ミャンマー一国のみでの経済活動を語るのは、愚の最たるものといえる。メコン河流域で、強い集積を誇る地域はタイ東部でしかない。考えるべきはこの地域とミャンマーをどうつなぐかであり、ミャンマーで同様の拠点を構築することではない。経済活動は今や、AECよりはるかに大きな枠組、ASEANと日、中、韓、豪州、ニュージーランド、インドというFTAパートナー6カ国で形成される「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」で考えていかなければならない。

タイプラスワンの候補地

 ASEAN域内の各地を部品などの中間財が回り、域外に完成品として輸出されるという体制が完成して久しく、その体制の中で「タイプラスワン」が議論されている。タイプラスワンを実現する上での不安材料は、昨年から今年にかけての政情不安ではなく労働力不足だ。

インラク政権が2012年に実施した、最低賃金の一日300バーツ全国統一は、最も評価されるべき経済政策だと思っている。タイを拠点にしながらも、労働集約型産業を横に展開させ分散型生産体制を目指すという、産業の高度化だ。「洪水騒ぎ直後で無謀、日系企業は去っていく、国内に残る産業などない」とまで非難された賃上げ。しかしこのぐらいのショック療法は必須で、サルも下の手を離さないと木登りできない。産業構造を変えるには、賃上げが最も近道だ。

 域内でもう一つ重要なのは鉄鋼や高級鋼板などの部材の安定供給だ。日本の製鉄メーカーの輸出先は、4分の1がASEAN地域で、その半分がタイ。これらの部材を域内で安定調達しようとすれば高炉はもちろん、原料を荷揚げする深海港が必要になってくる。

 答えはタイ西部カンチャナブリを真西に進んだミャンマーのダウェーしかない。単純計算で鋼材価格が2―3割下落するダウェーの開発で恩恵を受けるのはまさに日系企業だ。「バンコクからミャンマー国境まで150キロ」という批判的な意見がある。しかし、タイ国境からわずか4キロ地点での工業団地開発が計画されている、ミャンマー側ティキに注目したい。工業団地開発・運営タイ最大手のアマタによるもので、インフラはタイの品質、労働力はミャンマーの安さ。賃金はまさに2―3割安から半分という期待値だ。タイプスワンとしての一つの選択肢だろう。

 「それではタイ国内に展開する新たな産業とは何か?」 という質問になってくる。一例で自動車関連産業を挙げると、タイには高炉がないことは前述したが、鍛造・鋳造といった金属加工もまだまだ脆弱であり狙い目だ。このようなミッシングリンクを埋めていくことが今後、タイでのビジネスの勝負になってくるだろう。

問い合わせ
Data Collection Systems (Thailand) Co., Ltd.
電話:0-2308-0965 ファクス:0-2308-0956
担当:竹村 takemura.miho@dcs-group.co.jp
《newsclip》

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