戸島 国雄 氏(警視庁元鑑識捜査官・元似顔絵捜査官・タイ警察現役警察大佐)
―スリの身なりはいたって紳士的―
盗癖も治らない。金銭面で不自由がなくとも万引きを繰り返す者がいる。歳を取っても治らない。決して出来心ではなく、盗むという行為に快感を得るという癖だ。「捕まったら払えばいい」という考えで繰り返す者が多いが、初犯はともかく常習的な万引きは実刑となる。
年齢的には中年以上の高齢者が多いが、これは癖というよりはむしろ社会問題を反映しているといえる。毎年12月になると年寄りの万引きが増えるが、寒さを防げて食べ物にも困らず医療もしっかりしている刑務所での生活が望まれるからだ。
罪が重いのがスリで、実刑3年以上。高度な職人技を要し、万引きも空き巣もせずにスリ一筋で生きる輩がいる。70―80代と高齢者も多い。スリの身なりはとにかく紳士的だ。パリっとした服装、カバンも腕時計も高級ブランド、誰もスリとは疑わない。痴漢同様、満員電車の車両に最後にすっと乗り込むが、犯行は朝方ではなく夕方に多い。
秋葉原や品川など大きな駅の改札口で狙いを定め、車内まで追っていき、新聞という「幕」を広げて仕事を始める。たまたま隣り合わせた者を狙うことはなく、被害者は偶然に狙われるわけではない。スリに遭う、いわゆる「抜かれる」人は何度も抜かれることがあるが、何かしらの雰囲気を持っているようだ。
警察もスリの取り締まりには相当な力を入れている。捜査三課にスリ専門班があり、同班の刑事は「モサ係」と呼ばれる。モサは隠語でスリのこと。例えば東京なら上野駅からアメ横通りにかけて、数十人のモサ係が常に見回っている。抜かれる方は気付かないことがほとんどなので、モサ係はスリが手をかけた瞬間を捕まえなければならない。捕まる側は必死に暴れて逃走しようとするので、モサ係には体力的にも精神的にも相当な強さが求められる。刑事としてはやりがいがある任務だ。スリはモサ係と出会うとその日の仕事は諦める。スリの世界では、モサ係の写真が売り買いされているほどだ。
―日本人以外のスリは凶器を所持―
日本では江戸時代の巾着切りにさかのぼるなど、スリは伝統ある技であり、行動は常に単独。一方、日本でスリを働く韓国人などは、3人といった集団で行動する。銃や刃物を隠し持ち、捕まりそうになると凶器を持ち出して相手に襲い掛かる。腕が悪いことを自認しているようなものだが、ケガをする刑事や警官は数多く、顔を切りつけられた女性警官もいる。2020年の東京オリンピックではテロが警戒されているが、前回の1964年の東京オリンピックのときには、外国からの犯罪者を含めスリが警戒されていた。
バンコクではBTSのサイアム駅、アソーク駅、プロンポン駅、トンロー駅で抜かれる日本人が多い。特にMRTのスクムビット駅と交わり、大きなショッピングセンターが建つアソーク駅だ。以前に取り扱った事件では、犯人も日本人だった。抜いたクレジットカードをショッピングセンターのサイアムパラゴンなどで使用、ブランドものを買い歩く姿を防犯カメラに捉えられ、早い段階で逮捕された。高額の買い物だとカード会社に怪しまれるので、高くないブランド品をいくつも買いあさるのが常だ。身なりのきちんとした犯人で、抜かれた方は全く気づかず「外国人にやられた」と話していた。
日本人を狙うスリは、タイ人は少なく中東系が目立つ。やはり複数で行動、凶器を隠し持っている。場当たり的に抜くのではなく、当初より狙いを定めている。
―公の場で財布を出す日本人の不用心さ―
日本人が海外でスリやひったくりに狙われやすい理由の一つに、現金やクレジットカードなどの全財産を入れた財布を公の場で取り出すことが挙げられる。タイ人も外国人も、日本人ほど財布を持ち歩くことはなく、全財産を入れることもない。持ち歩いても人目に触れないよう気を付けている。ブランド財布をこれ見よがしに取り出す日本人は狙われて当然だ。
道を聞かれると、例え知らなくとも「知らない」「分からない」と言えずに相談に乗ってしまい、早々に詐欺に遭う。「日本に旅行に行く予定。日本円を見せてくれ」というすぐにバレそうな詐欺でも、日本人はホイホイと見せてしまう。「金目のものを人目にさらさない」「分からないことを分からないと答える」という常識に欠けるのが日本人といえる。
人間は全員、それぞれの癖をもっている。その癖は自分では分からない。人からは「酒癖が悪い」「女癖が悪い」と言われても、本人は自覚せず「他人に言われるほどではない」ぐらいにしか思わない。情報社会が発達した現代においても、地方より都市部の方が犯罪は多い。都会はやはり、人間関係が希薄だからだ。大切なのは人間付き合い。家庭や職場で相手のことを理解し付き合えば、犯罪は防ぐことができる。
〈戸島国雄〉
1941年1月1日生まれ。千葉県出身。1963年に警視庁入庁。牢番勤務を経て、本庁刑事部鑑識課へ。現場鑑識写真係として計36年間、殺人、強盗、強姦、火災、飛行機、列車事故など数々の事件事故現場を踏む。
1975年ごろより似顔絵描きを独学し、鑑識似顔絵として捜査に活用。初の「似顔絵捜査官」として、それまで主流だったモンタージュ写真から似顔絵へと、鑑識技術の流れを変える。1995年にはオウム真理教の捜査を担当している。
1995年11月、国際協力機構(JICA)の技術協力指導員として鑑識技術を伝えるため、タイ警察の科学捜査部に派遣される。技術協力指導員としては極めて異例ながらも、事件の現場に赴いて自ら鑑識活動を実践、検挙率のアップを促す。
1998年に帰国して警視庁を定年退職するも、タイ警察の要請を受けて2002年に再び来タイ、JICAシニアボランティアとして活躍。以降も警察大佐(日本の警視に相当)の身分で、日本人絡みを含め、多くの事故・事件の捜査に加わる。
タイ犯罪事情 癖(へき)と犯罪 (4)日本人以外のスリは凶器を所持
2015年7月16日(木) 00時15分(タイ時間)
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