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タイ軍政の憲法案、2大政党がそろって反対

2016年4月10日(日) 23時53分(タイ時間)
アピシット党首(中央)の画像
アピシット党首(中央)
写真提供、民主党
【タイ】タイの2大政党のひとつで反タクシン元首相派の民主党は10日、反タクシン派軍事政権が作成した憲法案に反対を表明した。もうひとつの大政党でタクシン派のプアタイ党はすでに憲法案への反対を明言しており、8月に予定されている憲法案の国民投票に影響しそうだ。

 民主党のアピシット党首(元首相)は10日の記者会見で、憲法案の内容は軍政が破棄した2007年憲法から教育、保健、消費者保護、環境保護など多くの面で後退したと指摘。議会上院が5年間、現軍事政権による任命制になることで、国民の政治への参加が縮小すると懸念を示した。軍政が汚職の取り締まりなどを理由に政治への関与を正当化しようとしていることについては、「タイは独裁か汚職かという選択をすべきではない」と述べた。

 民主党が反対を表明したことで、日ごろ犬猿の仲の2大政党が憲法案に関しては足並みを揃えた形だ。ただ、プアタイ党が新憲法案が公表された翌日の3月30日に、「起草に民意が反映されず、非民主的な内容」として反対を表明した一方、民主党は10日以上、態度を明らかにしなかった。民主党は2013年末から大規模な反プアタイ政権デモを主導し、2014年5月の軍事クーデターのきっかけを作った。こうした経緯から、党支持者のかなりの部分は軍政支持とみられ、憲法案をめぐって軍政と対立することに迷いがあったようだ。

 軍政の憲法案は国会を公選制の下院(定数500)と当初5年間は軍政が議員を任命する上院(同250)の2院制とし、非議員の首相も認める。2大政党制を狙った1997年憲法の選挙制度改革が軍政の宿敵であるタクシン元首相の台頭を招いたとみて、下院は大政党が不利となる選挙制度に変更。不安定な連立政権が成立する条件を整えた。軍・特権階級が軍事力と司法、傘下の上院を通じ、連立政権で不安定な下院と政府を間接的に支配することを狙った内容で、プレム政権(1980―1988年)の政治体制をほうふつとさせる。


■軍政、敵は「赤い手おけ」

 軍政は8月に新憲法案の国民投票を実施し、来年7月に下院総選挙を実施する方針だ。新憲法案が否決された場合の対応は明らかにしていないが、新憲法案に批判的なタクシン派の政治家や市民を相次いで「態度矯正」と称して拘束するなど、国民投票での可決を力ずくでもぎ取る姿勢を鮮明にしている。

 3月29日には、プラユット首相が軍政トップに事実上の全権を与える暫定憲法44条を行使し、広範は警察権限を軍士官に与える命令を発布した。時期が時期だけに、憲法案に反対するタクシン派の取り締まりが狙いとみられる。

 この命令については、アムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチといった6つの国際的な人権保護団体が、重大な人権侵害を招き法治を揺るがすと批判する共同声明を出したほか、米国務省が懸念を示した。

 同日、タクシン元首相の地元である北部チェンマイでは、インターネットの交流サイト、フェイスブックにタクシン派からプレゼントされたとみられる赤い手おけの写真を掲載したタイ人女性が扇動罪容疑で逮捕された。手おけには「(政治)状況は暑いけど、ピーノーン(兄弟姉妹)はこの手おけで涼んで。ソンクラン(タイ正月)祝賀」というメッセージが印刷されていた。赤はタクシン派のシンボルカラー。

 軍政はこの赤い手おけに神経を尖らせ、4月1日に北部ナーン県のプアタイ所属の前下院議員宅で8862個、9日には東北部スリン県でタクシン派市民の自宅で547個を押収した。プラユット首相は、手おけを配った場合は連行拘束すると警告している。

 これに対しタクシン元首相は3日、インターネット上の写真共有アプリ、インスタグラムに問題の赤い手おけの写真を投稿し、「手おけは毎年配っているもの」、「これが国家の安全保障上の問題か」と軍政を批判。時間と税金を有効に使い、深南部のテロや麻薬といった重要な問題に取り組むべきと指摘した


■タクシン派vs反タクシン派

 タイでは2006年以降、東北部と北部の住民、バンコクの中低所得者層の支持を集めるタクシン派と、特権階級、南部住民とバンコクの中間層を中心とする反タクシン派の抗争が続き、政治・社会が混乱している。

 反タクシン派はタクシン氏を反王室の腐敗政治家と糾弾し、2006年の軍事クーデターでタクシン政権(2001―2006年)を打倒した。タクシン派は2007年の民政移管選挙で勝利したものの、2008年に「司法クーデター」と呼ばれた裁判所によるタクシン派与党解党で反タクシン派に政権を奪われた。反タクシン派政権下の2009年、2010年、タクシン派は、特権階級が軍官財界を動かし民主主義や法治をねじまげているとして、政権打倒を目指すデモを行い、2010年のデモでは治安部隊との衝突で、市民、兵士ら91人が死亡、1400人以上が負傷した。

 タクシン派は2011年の下院総選挙で再度勝利し、タクシン元首相の妹のインラク氏が首相に就任した。しかし、2013年10月から、民主党が主導する反タクシン派市民のデモがバンコクなどで拡大。2014年1、2月には数万人がバンコクの主要交差点を長期間占拠した。5月に入り、軍が治安回復を理由に戒厳令を発令、クーデターでタクシン派政権を倒し、全権を掌握した。

 軍は当初、両派の和解を目指すとしていたが、タクシン派の官僚、軍・警察幹部のほとんどを左遷し、地方のタクシン派団体を解散に追い込むなど、タクシン派潰しを推進。2015年1月には、軍政が設立した非民選の暫定国会「立法議会」が、「コメ担保融資制度をめぐる職務怠慢」でインラク前首相を弾劾にかけ、前首相の参政権を5年間停止した。

 軍政は当初、2016年に総選挙を実施するとしていたが、2015年に軍政傘下の憲法起草委員会が取りまとめた新憲法案を自ら否決。新たに起草作業に入り、選挙時期を先送りした。

 タイではクーデターなどで度々憲法が廃止され、その度に新しい憲法が制定されてきた。1997年には、選挙で選ばれた憲法議会を通じて作成された新憲法が施行され、初の国民参加型で最も民主的な憲法との評価を受けた。この1997年憲法は2006年の軍事クーデターで破棄された。軍政下の2007年に制定された新憲法は、議会上院のほぼ半数を非民選とするなど、特権階級の政治介入を制度化し、政党の力を殺ぐ内容となった。この憲法も2014年のクーデターで破棄され、現在は軍部が実質的に全権を握る暫定憲法が施行されている。
《newsclip》

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