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【水産流通革命:2】鮮魚の産直開拓、漁協の関係をどう築く?

2016年9月29日(木) 11時46分(タイ時間)
大きな活イカのいけすが目を引く南柏総本山店の入り口で、店長と料理担当者と柴田常務の画像
大きな活イカのいけすが目を引く南柏総本山店の入り口で、店長と料理担当者と柴田常務
魚一商店 南柏総本山店の店内。イカ漁に使うランプが灯り、シャケが入っていた木箱が天井の壁材に使われるの画像
魚一商店 南柏総本山店の店内。イカ漁に使うランプが灯り、シャケが入っていた木箱が天井の壁材に使われる
毎日、仕入れにもとづき情報が刷新される魚一商店のメニュー表。細かな情報の記載が店の愚直さを表わすの画像
毎日、仕入れにもとづき情報が刷新される魚一商店のメニュー表。細かな情報の記載が店の愚直さを表わす
生産者の顔を客に見せることを心掛けているため、店内には取引先の漁協や仲卸のパネルが掲げられるの画像
生産者の顔を客に見せることを心掛けているため、店内には取引先の漁協や仲卸のパネルが掲げられる
【記事のポイント】
▼仕入れ先の魚の情報公開を徹底する
▼クール便の高い輸送費は必要コストと考える
▼仕入れ先との関係を維持するために、取引漁業者数は増やし過ぎない
▼研究熱心で意欲的な漁業者が飲食チェーンに選ばれる


■6店舗経営の中小居酒屋チェーンが築き上げた「9割産直」

 産地直送で他店と差別化したいが、さまざまな手間を考えると、踏み出せない。そう考える飲食店主はおそらく少なくないだろう。東京と千葉に6店舗の居酒屋を経営する洋伸は、リーマンショック後の09年、既存の和食居酒屋を全店舗、産地直送の新鮮な魚がウリの鮮魚居酒屋に切り替え、その一歩を踏み出した。それから7年。いまや全店舗で扱う魚の9割を、北は北海道から南は高知土佐清水までの産直が占め、新鮮さと味を武器に、愚直に独自の生き残り策を模索し続けている。

 千葉県柏市に本社を置く同社。経営する居酒屋の屋号は、四谷や恵比寿などに店を構える「魚一商店」、新松戸の「魚ざんまい 魚三郎」、稲毛の「魚七鮮魚店」の3つがあるが、いずれもウリは新鮮な魚介だ。

 中でも200人前後の大宴会も可能だというJR南柏駅から徒歩1分の旗艦店「魚一商店 南柏総本山店」では、名物のひとつの活イカが泳ぐいけすが置かれ、通路沿いには各地の生産者の写真を入れた大きなパネルが所狭しと並ぶ。ほかにも、天井にはイカ漁に使う大きなランプや、魚を入れていたとみられる木箱の板。テーブルに置かれたメニュー表の表紙には、これまた取引先とみられる漁業関係者の写真が14枚――。店内のどこもかしこも産直がPRされている。

 同社が徹底しているのは、そのメニュー表だ。ラミネート製と紙製の2種類あり、紙製のメニュー表は毎日刷り直して、産直の魚か市場の魚がわかるようにしている。たとえば刺身の盛り合わせが2人前1555円(税抜き)だとしたら、まず、メニュー表の上段に、盛り合わせに使われる魚を、「本マグロ脳天、サケ、イナダ(ブリの幼魚)、カンパチ、コショウ鯛」といったふうに全種類を明記。その下段で、「外洋産 生インドマグロ」「沼津直送 真鯛」といったふうに、産直かそうでないかを区別して記載し、料理の配膳の際にも口頭で伝える徹底ぶりだ。取引先が変われば、ラミネート製のメニュー表もつくり直す。

「だってお客さんも、どこで捕れた魚か知れたほうが安心だし、おいしく感じるでしょう? 毎日、仕入れ先は変わるので、メニュー表も毎日書き換えないと」

 柴田賢一常務はこともなげに話す。和食居酒屋から産直鮮魚居酒屋に切り替えた09年は、食品偽装問題が世間で注目された時期だったこともあり、当初から一貫して、使う魚の情報公開は徹底してやってきたという。仕入れは各店の料理長に任されているが、すべての店舗では営業前に、その日、客に出す魚の産地を打ち直したメニュー表を刷新するのが日課だ。

 もちろん、洋伸側にとって、「9割産直」にはデメリットもある。コストだ。いわゆるクール便の輸送費は、ここ2年ほど、輸送業者側で値上げの傾向にある。それでも「譲れない生命線」だとして、鮮度が良い産直の割合は減らさない方針だという。

■中小居酒屋チェーンが1道7県の漁協や仲卸を捕まえるまで

 洋伸が現在、鮮魚の産地直送取引を行なう先は1道8県。その取引相手は漁協や各地域の仲卸だ。同社ホームページでも公開をしているが、北海道知床からは水ダコ、函館からはウニ、ホッケ、鮭などを仕入れる。6店舗でひと月に2トンは消費するという浜焼きで人気のホタテ貝は、青森県野辺地町の漁業組合から。銚子からは金目鯛や松輪の活イカを、三重・南伊勢からはヒオウギ貝を、高知県土佐清水からは清水サバをと、各地から旬の魚が送られてくる体制を取る。外洋ものの入手と不漁に備えて、築地の仲卸2社とも取引を行なっているようだ。

 中小の居酒屋チェーンが、なぜここまでの取引先をつかまえることができたのか。産地との取引や調整を一手に任されている柴田常務によると、まず第一に赤澤伸社長の強い思いれがあったという。


「最初は産地直送の取引先は数社でした。でも、どうしてもやるんだということで、信頼できる漁業関係者に各地の漁協や仲卸を紹介してもらうなどして、少しずつ数を増やしていきました」

 たとえば、取引先のひとつである函館の仲卸を紹介してくれたのは、先に取引をやっていた高知の仲卸だったという。ほかにも、あるときは、大手スーパーで見かけた魚の箱に書かれた漁業名を手掛かりに電話をかける。あるときは、社長といっしょに著名な仲卸業者を訪れる。そして、社長自ら釣りを始めたことで、いかに鮮度が大事かがわかったこと。どうしても鮮度の良い、美味い魚を客に食べさせたいという熱意を伝えたことで、ようやく取引を始めることができたこともあったという。

 とはいえ、海に囲まれた日本には津々浦々に漁業者も仲卸もたくさんいる。何を基準に取引先を選んだのか。柴田常務はこう話す。

「まず味ですね。そして人間性。真面目に正直に取り組んでいる方々と取引をしたいと思っていますし、現在、取引を行なう方々は、そうした方々ばかりです。同世代の方が多いのですが、皆さん、研究熱心で意欲的。そうした方々の商品なので、ものも鮮度も安定して良いものを送ってもらえています」

 どこにどんな漁協があり、仲卸がいるかは、インターネットで検索すればいくらでも出てくるし、マッチングサービスを行なうサイトもある。だが、自社ではそうした取引先を実際に自社の目で見極めるために、独自開拓にこだわってきたという。商談にいたったものの、条件が合わず、断った漁業関係者も少なくない。

 魚介の産直取引をすでに行なう立場から見て、産直に関心のある漁業者全体を見渡すと「売り方がわからないのでは」と感じることもあると柴田常務は話す。仕入れ側の立場に立つと、利便性は重要なポイントだ。すでに確立された市場を通す売り方に比べると、直接取引は簡単ではなく、断念する関係者も見てきた。

 そうしてつかんだ産直の取引先のため、同社ではこれ以上、積極的に取引先を増やすことはしたくないと話す。理由は相手との関係性が保てないからだ。

 漁獲量は天候や海の環境の変化で変わる。さらに、SNSや口コミでメディアに取り上げられて人気と知名度が高まれば、漁協側が力を持ち、誰にその魚介を卸すか、日ごろの関係がものをいう。そのため、取引先とは密な連絡と関係性が必要になる。真面目で良いものを出す漁協や仲卸なら、どこだって取引したいと思うのが当然だ。そのため取引先とは「密な連絡と関係性が必要」だと話す。そうすることで「9割産直」という自社の売りを守るスタンスだ。とはいえ、一方では「新たに勝負ができる、お客様に喜んでもらえる商材があれば、どん欲に新規開拓は続けたい」とも話している。

 洋伸では漁協や仲卸との取引で、特定の魚種をウリにしているところ以外は、魚種を指定せず、キロ単位の価格で買い取っている。そうした取引のしやすさも、奪い合いともいえる各地の良い漁協や仲卸との取引を保つ秘訣のようだ。

■海産物の取引先はそのまま、異業種の産直取引を開拓する

 近年、洋伸では、野菜の産直に取り組み始めた。すでに近郊の農家と組み、生野菜やゆで野菜を、カニみそとオリーブオイルのソースで食べるオリジナルの「バーニャカウダー」など、魚と野菜の接点のあるメニューの提供を始めている。店のホームページに掲げるキャッチコピーも「産直鮮魚と新鮮野菜の上質居酒屋」にこのほど変えた。

 今後、野菜の生産者の顔が見えるようメニュー表を刷新するだろう洋伸が、堅実で実直な姿勢を武器に、どこまで鮮魚の産直で得た信頼取引のノウハウをもって、農業の生産者との取引を開拓し、産直居酒屋を発展させていくのか。全国各地の同規模の中小居酒屋チェーンにとって、注目すべき事例になるだろう。
《塩月由香/HANJO HANJO編集部》


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