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~規制緩和が生む新観光業:1~地方特化の通訳ガイドはじまる

2016年11月10日(木) 19時46分(タイ時間)
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規制緩和によって資格が無くても通訳ガイドができるほか、ツアーの販売が行えるようになる可能性がある
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立教大学観光学部の東徹教授
【記事のポイント】
▼地域に特化した通訳ガイド、その専門性にフォーカスしたサービスを
▼”移動中にある日常風景”という訪日客のニーズを捉えたツアーを作る
▼不足しているのは、地方における東南アジア向け通訳ガイド


■インバウンドの急増をうけた規制緩和がはじまる

 国会での民泊についての議論が注目を集めている。急増するインバウンドに対するホテル不足が予測され、これを民泊解禁という規制緩和で解決しようという動きだ。これにともない宿泊業はもちろん、新たな保険商品や宿泊設備の導入など様々なビジネスが生まれようとしている。

 これと同じ動きが今、通訳ガイドやツアー販売にも起きつつある。現在、外国人観光客向けに通訳ガイドを有償で行えるのは、国家資格である「通訳案内士」に限られる。政府はこの業務独占を廃止し、国家資格がなくても有償通訳ガイド業務ができるよう規制緩和を行う方針だ。

 これは、例えば浅草を行き来する人力車にもプラス材料になる。現在でも車夫は英語など外国語を駆使して観光スポットの案内をするが、それは料金に含まれない”無償サービス”だ。車夫の大半は通訳案内士の資格を持っていないので、通訳しつつ観光ガイドを行っても、そのことでは料金を取れない。

 規制が緩和されれば、彼らも外国人観光客に対して、通訳ガイド料を価格に乗せることが(理屈としては)できるようになる。要するにこれまでは対価が設定できなかったサービスで、料金設定が可能になるわけだ。

■地域特化の通訳ガイドに商機あり

 では、規制緩和によってどのような商機が生まれるか。観光マーケティングを専門とする立教大学観光学部の東徹教授によると、日本の地理から歴史、一般知識まで全般に対する知識がなくても、通訳ガイドの業務が行えるようになるとのことだ。

「今後は日本全国ではなく、特定の地域やジャンル、施設といった専門性をもった通訳ガイドが活躍するようになるでしょう。添乗員が同行する周遊型のツアーでは、一人のガイドがずっと付きっきりである必要はありません。立ち寄る地域や施設ごとに、専門のガイドがバトンタッチしながらリレーしていけばいいわけです」

 地域という単位をより細分化して考えれば、例えばホテルにおいて、散歩して回れる範囲に特化して通訳ガイドを提供するといった、ミニマルなサービスも考えられる。特定のスキー場のことなら、雪質から地形までなんでも知っているというガイドもあり得そうだ。

 現在も認定された少数の特区では、その地域内だけで通用する通訳案内士資格が運用されている。規制がなくなれば、そうした“地域に強い”ガイドが全国各地で必要とされるようになるだろう。そんな地域を愛するガイドが、地域の魅力をエンターテインメント性豊かに伝えることが、今後の地域観光では重要になっていくとのことだ。例えば、身振り手振りを交えながら、地元の方言で土地の魅力を紹介する老人も、その語り口や振る舞いの面白さが一つのアトラクションになっているという。

「言葉のコミュニケーションを越えたところで、観光客を楽しませてくれる人がいます。ガイドブックに書いてある教科書的な知識を伝えるだけなら、テープレコーダーの音声ガイドで十分です。今の時代は地域を正しく伝えるだけではお客様を満足させられませんので、人間性豊かでエンターテインメント性をもったガイドができる人材が必要とされるでしょう」


■ガイドツアーに求められる“経験価値”

 観光業界では今、着地型観光に代表されるように、“経験価値”を重視する傾向にある。世界中から多様なニーズを持った訪日客が訪れる今、彼らに質の高いツアーを提供するには日本の何をどのように見せ、何を感じてもらうかが重要だ。その参考になるような例として、“お客様の期待を超える”ガイドツアーを提供して高い評価を得ている企業がある。13年創業のトラベリエンスだ。

 トラベリエンスでは外国人観光客に人気が高い浅草を中心にして、徒歩や公共交通機関での移動による外国人観光客向けの日帰りツアーを提供している。案内するのは通訳案内士の有資格者だ。移動過程も重要と考え、徒歩でのゆったりした移動の中で日本の文化や生活に直接触れてもらうことを大切にしているという。この経験価値から観光を捉えることの大切さは、東教授の言葉からうかがい知ることができる。

「地域の資源、コンテンツを経験価値に変えること、つまり旅先で出会ったモノやコトをお客様が思い出に残る特別な出来事として心に刻み、留めてくれることが観光なんです。日本に来る時はゲストですが、高い経験価値を得ることで、帰国する時には日本のファンになってもらえたら最高です」

 日本のファンになってもらえれば、「もう一度日本に来たい」と思ってもらえるし、ネットの口コミとしても広がっていく。それが再来日や、新しい顧客の獲得に繋がるわけだ。

■ガイドの質を保つランク付けや分業も必要

 規制緩和には問題がないわけではない。現状でも、需給のアンバランスを突いて、資格をもたないガイドがいわゆる“モグリ”で仕事をしているケースが少なからずあるという。規制の見直しによって通訳案内士の業務独占が廃止され参入障壁が低くなれば、通訳ガイドの量的不足は解決に向かうだろう。だがその反面、質が低下するリスクも伴う。

 これについて東教授は「通訳ガイドの質を担保するため、地域ごと、ジャンルごとに専門ガイドのライセンス制を設けたり、能力に応じたランキング制を設けるなど、なんらかの工夫が必要でしょう」と話す。

 そのほか、能力に合わせた通訳ガイドの分業も考えられるとのことだ。例えば、空港とホテルの間の送迎や出入国時のアテンドだけなら、歴史や文化についての幅広い知識や専門的な知識は必要ない。ある程度の語学力と知識があれば事足りるだろう。

 また、現行の通訳案内士制度で指摘される問題が、英語と大都市による偏在だ。昨年の訪日客1974万人のうち、中国、韓国、台湾、香港といった東アジアからの旅行者はおよそ7割を占める。しかし中国語と韓国語の通訳案内士は全体の2割に満たず、需給に大きなギャップがある。さらに、その4分の3が大都市圏とその周辺に集中しているのが現状だ。

 外国人観光客向けの通訳観光ガイドという分野は、これまで資格によって守られていた分野だけに、他業種の事業者にとっては“未知のジャンル”といえる。しかし、その偏在状況を見るに、地方における東南アジアからの訪日客向けのビジネスにおいては、十分な商機がありそうだ。ホテル周辺の散歩を通訳するだけでも、それが訪日観光客にとっては大きな差別化となり、口コミが新たなリピーターを生む可能性を秘めている。
《久保田弥代/HANJO HANJO編集部》


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