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【養殖モノを海外で売る!:3】狙うは富裕層、DHA強化ブリ

2016年12月9日(金) 13時05分(タイ時間)
約100万尾を生産するブリのうち、自社養殖比率をここ10年で約4割まで増やしたの画像
約100万尾を生産するブリのうち、自社養殖比率をここ10年で約4割まで増やした
給餌には専用の船を利用。成分の調整で、DHA強化ブリなどを開発しているの画像
給餌には専用の船を利用。成分の調整で、DHA強化ブリなどを開発している
ブリは丸のままだけでなく、切り身などにも加工して出荷の画像
ブリは丸のままだけでなく、切り身などにも加工して出荷
市場がシュリンクする中で、新たな販路を模索する尾鷲物産の画像
市場がシュリンクする中で、新たな販路を模索する尾鷲物産
【記事のポイント】
▼“美味しくて健康にも良い”魚の脂に、世界の富裕層が注目
▼アジア圏の食文化では、カマなどの部位にも需要が
▼コールドチェーンが確立されたばかりの国に新規参入のチャンス


■大手の寡占が進む国内マーケット、海外に活路を求める

 地方では高齢化が進む中で、養殖生産者がその数を減らしつつある。その一方で国内の海面魚類養殖業生産量は約25万トンと、ほぼ横ばい状態に。つまり、大規模事業者による保有尾数が増えており、今後少子化によるマーケットの縮小が予測される中で、国内では激しいシェア争いが行なわれることになりそうだ。

 その中で今、販路を海外に求める動きが増えている。古くから三重県で魚の加工業を手掛け、10年前からはブリの自社養殖にも着手した尾鷲物産もその一つだ。アベノミクスが打ち出す「農林水産物・食品の輸出促進」に伴う国や県の支援を受けて、14年から輸出事業を本格化。世界に向けて冷凍ブリを出荷するほか、台湾とシンガポールには生食用のブリも輸出している。

 尾鷲物産総務部常務取締役の玉本卓也氏によると、以前から商社を通じて、ブリのカマを輸出していたという。国内マーケットでは値段が取れない中で、最終的に一番売価が高かった仕向け先が台湾だった。そのため、海外市場への展開についてはある程度のイメージがあり、ここ数年増えている国や県が主催の商談会にも積極的に参加していたという。

「アジアでは日式と呼ばれる日本食レストランも増えていますし、日本人が経営する本格的な和食の店も現れています。数年前に弊社の社長が、そんな和食の店を訪ねたことがありました。そこは、かなりの高級店なのですが、予約が無いと入れないほどの人気で、魚の品質もなかなかに高い。こういう市場であれば勝機があると考え、それが海外市場に本格進出するきっかけとなりました」

■注目すべきは富裕層の数とコールドチェーン

 海外市場に打って出る上で、ブリという魚にはいくつかのアドバンテージがあった。日本固有種であり、脂の乗りが良いこと。それでいて、その脂には不飽和脂肪酸のDHAやEPAが含まれており、健康志向を打ち出せる。これが、特に富裕層向けには良いアピールになった。

 ただ、日本におけるブリの主な輸出先はアメリカだが、冷凍輸出からはじめて10年以上の歴史があるため、すでに販路はある程度の寡占状態にあるという。価格競争も活発化しており、CO2処理のような独特の加工法が評価されている部分もあるため、後発が参入するのは難しい。



 そこで尾鷲物産が注目したのが台湾とシンガポールだった。アジアでも富裕層が多く、和食の店も増えている。それに加えて、魚を低温のまま流通できる、いわゆるコールドチェーンの設備も整っていた。

「冷凍状態での物流であれば問題ないのですが、生食用のチルド商品については、まだ保管設備の導入が遅れている国もあります。中には、気温が30度近いところで数時間放置されるような経路もあるようです」

 国内では沖縄をハブ空港にする取り組みや、物流業者による輸出技術の発達も進んでいる。尾鷲物産であれば中部国際空港を利用して、生鮮ブリの輸出を強化してきた。しかし、その仕向け先によっては、例え距離が近くても、物流の問題で生食用のブリが出荷できないケースがあるという。例えば、中国では検品や通関に時間がかかるため、尾鷲物産でも現状では冷凍もののテスト出荷しか行っていない。

■他国の養殖魚に負けない、高付加価値な製品を開発

 ブリには海外でも勝負できる優れた個性がある。しかし、ナマズやティラピア、マルコバン、シイラといった競合に比べると、やはり生産コストの問題などから価格競争力では分が悪い。そこで、尾鷲物産が取り組んでいるのが歩留まりのコントロールだ。

 例えば、5キロのブリをおろすと、取れる身の部分は約1.5キロ。生産コストを考えると売価は5000円程度となる。しかし、同社ではカマの部分を台湾に出荷している。それも、ある程度の身を残した高付加価値な商品としてだ。従来は捨てていた部分に価格を持たせて、身の部分の価格を抑える。それが、魚の加工業を手掛ける尾鷲物産ならではの戦略だという。

「アジア圏では魚を煮つけにする食文化があり、あらの部分も食べられています。特に、カマの部分は1尾から2個しか取れないこともあり、台湾ではまだまだ需要に出荷が追いついていない状況です」

 それに加えて同社では、高付加価値なブランド養殖魚の開発にも力を入れている。例えば、高知県宿毛市の生産者とともに開発した「高知すくもの夏ぶり」は、夏場でも旬のブリと遜色のない脂の乗りが高く評価されている。

 さらに、16年12月からは脂にDHAやEPAを多く含むブリも、国内外へと展開していく。餌となるペレットに含まれる魚油を調整することで、含有量を通常の1.2倍から1.5倍まで向上させた。「サプリを飲むなら、お寿司を2カン食べてはどうですか」などと、健康志向の富裕層に向けて販路を開拓していく狙いだという。

 和食ブームと国の支援により、ここ数年で生鮮食品の輸出事情は大きく変わった。コールドチェーンの発達により、水産物は生食用の出荷が可能となり、現地の生産物に負けない品質を維持できる。特に、アジア圏については、富裕層の増加も含めてまだまだ発展途上のため、後発の事業者にも十分なチャンスがあるだろう。
《丸田鉄平/HANJO HANJO編集部》


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