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【中田徹の沸騰アジア】高額紙幣の流通停止でインドの二輪車市場に急ブレーキ

2017年1月20日(金) 09時49分(タイ時間)
高額紙幣の流通停止で現金払い中心のインド二輪車市場に打撃の画像
高額紙幣の流通停止で現金払い中心のインド二輪車市場に打撃
《写真 GettyImages》
デリーでバイクに乗る中流層の画像
デリーでバイクに乗る中流層
《写真 GettyImages》
ナレンドラ・モディ印首相の画像
ナレンドラ・モディ印首相
《写真 GettyImages》
インドの商都ムンバイ、2015年末のこと。現地在住の友人に連れて行ってもらったバーでサモサをつまみにモヒートを数杯飲み、支払いの段になって紙幣数枚を店員に渡した。数分後、店員がお釣りを持ってきたと思ったら、「これはフェイク(偽札)だ」と100ルピー紙幣2枚を戻してきた。別の紙幣で支払いを終え、手元に残った『偽札』と財布に入っていた他の紙幣と比べてみたが違いが判らない。翌日、ホテルでの支払いにその100ルピー紙幣を使ったが、受け取りを拒否されることはなかった。


◆高額紙幣の流通を突如停止

インドのモディ首相は昨年11月8日夜、テレビの全国放送を通じて1000ルピーと500ルピー(旧)の高額紙幣2種類を廃止すると突如発表。同日深夜で両紙幣の流通を停止させ、11月10日導入の2000ルピーと500ルピー(新)の新紙幣へ交換するよう促した。この措置は、蔓延している偽札の排除、ブラックマネーの摘発・撲滅、マネーの流れの透明化などを目的としている。

インド財務省のプレスリリースによると、インドのGDP全体に占める「影の経済(シャドウエコノミー)」の割合が2007年時点で23.2%(世銀推定、2010年7月)に膨らんでいることが背景にあり、今回の発表につながった。また、クレジットカードや携帯電話のアプリなどを活用したデジタル決済の促進も狙っている。

小売業への外資参入規制があるインドでは、伝統的な小規模商店が市民の日常生活を支えており、現金による支払いが消費活動の大部分を支える。国内商取引の約90%が現金決済とも言われる。こうしたなか、市中に出回る紙幣の多くが無効となり、消費市場は大混乱に陥っている。自動車関連では、現金払い中心の二輪車市場が打撃を受けている。インドの地方都市や農村部では、農作物の収穫期にまとまった現金が手に入るため、その資金でモーターサイクルなどの耐久消費財を購入するケースが多いが、新紙幣の供給が追い付いていないこともあり、二輪車販売台数が11月と12月に前年同月比でマイナスに沈んだ。


◆二輪車市場は2割減に

インドでは、モンスーン期(毎年5月末~9月頃)の降水量が農作物の収穫量を左右する。2014~2015年は平年より雨量が少なく農村経済は低調となったが、一転して2016年のモンスーンの状況は良好だった。こうした中、二輪車市場は好調で、9月には月間販売として過去最高となる187万台(前年同月比22%増)に膨れた。10月も9%増の180万台と好水準が続いたが、高額紙幣の流通停止の影響で11月に6%減の124万台と急ブレーキがかかり、12月には22%減の91万台に落ち込んだ。1~12月累計では前年比10%増の約1770万台で過去最高となったが、ヒーローモトコープやホンダなど二輪車大手は年末年始までに生産調整を余儀なくされている。

ローンの利用が多い乗用車販売をみると、9月に20%増の27.8万台、10月に5%増の28.0万台となったが、11月は1.8%増の24.1万台に失速。12月に1.4%減の22.8万台となり、二輪車市場ほどではないものの販売減少に直面している。真偽は不明だが、「タンス預金を使って急きょ高級車を買い、資産防衛を図った富裕層がいる」といった話もあり、乗用車市場も余波を受けているようだ。


◆GST導入の影響は?

インドの自動車市場を巡っては、新たな不確実要因もある。インド史上最大の税制改革と言われるGST(物品・サービス税)だ。

現時点では、7月以降の導入が見込まれる。2016年11月時点の議論の内容に沿えば、新車購入時に課せられる基本税率は現状より若干低い水準になる可能性があり、そうなれば需要喚起が期待される。一方で、小型乗用車に対する優遇が従来と同じ水準で維持されるか、という点に注目が集まる。自動車メーカーの製品戦略やプロダクトミックス、価格戦略に大きな影響を与えかねないためだ。大詰めを迎えたGSTの議論。2017年2月1日にインド政府が提示する予定の2017-18年度連邦予算案に合わせて最終決定の内容が明らかにされる可能性がある。

相次ぐ大型経済政策の導入に揺れるインド自動車産業だが、四輪車市場は2017年に年間400万台の達成に手が届くところ立つ。2016年にドイツ市場と肩を並べる規模に育った巨象の成長力に期待がかかる。一方、苦境の二輪車市場は9年連続の過去最高更新を確保できるか、インドの消費市場の底力が試される。


中田徹|自動車産業アナリスト。1978年、愛知県生まれ。2002年、京都産業大学外国語学部卒業。英国でのボランティア活動などを経て、株式会社フォーイン入社。自動車産業アナリストとしてアジア地域を中心に取材・調査およびレポート執筆を行う。2009年より『FOURINアジア自動車調査月報』編集長。
《中田徹@レスポンス》


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