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~日本式介護の輸出:2~アジア進出の実績が人材を循環させる!

2017年2月1日(水) 13時37分(タイ時間)
中国やタイでは高齢化が進み、日本的な介護サービスへの需要も高まっているの画像
中国やタイでは高齢化が進み、日本的な介護サービスへの需要も高まっている
介護人材の育成も急務となる。経済成長が進むタイなどでは、すでに人手不足が問題となっているの画像
介護人材の育成も急務となる。経済成長が進むタイなどでは、すでに人手不足が問題となっている
2016年1月にバンコクで開設した有料老人ホーム「Riei nursing home Ladprao」の画像
2016年1月にバンコクで開設した有料老人ホーム「Riei nursing home Ladprao」
2015年4月にバンコクに開校した、サハグループ「THANARA ACADEMY」内の介護士養成学校「Wellness and Service Thanara School」の画像
2015年4月にバンコクに開校した、サハグループ「THANARA ACADEMY」内の介護士養成学校「Wellness and Service Thanara School」
Thanara Schoolではナースエイドなど、介護従事者の育成を行うの画像
Thanara Schoolではナースエイドなど、介護従事者の育成を行う
中国成都では介護施設「礼愛老年介護中心」が今春開設予定の画像
中国成都では介護施設「礼愛老年介護中心」が今春開設予定
リエイ代表取締役社長兼会長の椛澤一氏の画像
リエイ代表取締役社長兼会長の椛澤一氏
【記事のポイント】
▼海外進出においては、政財界や各業界の有力者との人脈作りが大切
▼経済が成熟しつつあるタイでは、すでに介護人材の確保は困難な状態
▼新規での海外進出に待つ壁を、“実験”として正面から受け止める
▼日本の介護ソフトの賞味期限は中国で3年、タイでも5年!?


■タイ進出後、政財界や病院関係者との人脈作りに注力

 日本のみならず、多くの国で深刻な問題となりつつある高齢化。生産年齢人口の多い発展途上国においても、長期スパンで見れば経済成長とともに先進国と同様、少子高齢化に直面する可能性は高い。こうした状況を背景に、世界で注目を浴びているのが日本の高齢者向けサービスだ。

 2016年夏、政府主導によって高齢化が進むアジア地域に日本の介護システムを輸出する官民連携プロジェクト「アジア健康構想」がスタートした。このことも追い風となり、国内の介護事業者が海外へと目を向け始めている。こうした動きに先がけて、2003年からタイに進出。2016年にはバンコクで念願の介護入居施設を開設したのが、生活サービス事業の一つとして介護事業を展開する株式会社リエイだ。

 社員寮や食堂の管理・運営など、法人向け福利厚生サービス受託事業で業績を伸ばしてきたリエイ。2000年4月の介護保険制度施行と同時に介護事業へと参入。「介護事業では我々は後発組。日本国内に留まらず海外へと目が向いたのは、自然の流れでした」と、代表取締役社長兼会長の椛澤一氏は海外進出の理由を説明する。

「日本だけではいい人材は確保できないと、実際に参入してみて感じました。いわゆる3Kの介護の仕事をやりたがる日本人はどんどん減っていくでしょう。そこで海外人材を日本に連れてこようと考えたのです」

 候補に挙がったのはホスピタリティの面で優れているフィリピンとタイ。当時、日タイ間でFTA(自由貿易協定)の機運が高まっており、FTAを柱としたEPA(経済連携協定)によるタイ人介護士の日本受け入れの可能性がでてきたこと。さらには、リタイア後のロングステイの地としてタイに注目が集まっていたことが、タイへの進出を後押しした。

 2001年からタイへの視察を重ね、病院を回り、関係者やタイ保健省の人間とのネットワーク作りに力を注いだという椛澤氏。

「当時は“日本ブランド”というだけで政財界や関係者が歓迎してくれた時代です。タイでは高齢化への実感は殆どありませんでしたが、理念として賛同を得て、多くの人脈を形成できました」

 その中で得た人脈を駆使し、現地病院が経営する准看護師学校と提携して、タイ人介護士の養成を開始。平行して日本人を対象とした介護付サービスアパートメント運営(ロングステイ事業)を始める。しかし、結局FTAは実現しないまま、また当時の日本人高齢者の需要も追いついておらず、この事業は頓挫。しかし、そこで培った人脈が後々役立つことになる。


■人材育成はタイから発展途上の周辺国へと拡大

 転換期となったのが2010年。ターゲットを日本人ではなく、現地高齢者にシフトチェンジしたのがきっかけとなった。タイでもバンコクなど都市部を中心に高齢化社会を意識し始めていたが、施設への入居という感覚は薄く、自宅での介護が一般的だったため、訪問介護事業をスタート。これは将来的な介護施設展開に向けてのマーケティングも兼ねていた。

 このサービスは現在も継続しており、20名ほどの利用者がいるという。意外に少ない数字だが、その理由として「経済が成熟しつつあるタイでも、日本と同様に3Kの仕事に就きたがる若者は減ってきた。いい人材の確保は困難」と話す。需要にヘルパー供給が追い付かない状況だ。

 そこで進出時に培ったネットワークをもとに、大手財閥サハグループと提携し、2015年4月、介護士養成学校を開校。タイ人に加え、ネパール人生徒の受け入れやネパールへの出張授業を実施した。翌年にはミャンマーに人材育成を目的に現地法人を設立している。

「介護の人材はアジアの発展途上国で確保し、日本やタイの弊社施設で経験を積んだ後に、将来は経済成長に伴って高齢化を迎えている彼らの母国で活躍してもらう。こうした循環を企図しています」

■中国では広告塔の役割を担う多機能型施設で成功

 このような事業を成功させてきた背景には、同社の事業の障害を“実験”と考えて前に進む姿勢がある。

「例えば、弊社が中国で運営する介護施設で、介護中のケガで訴えられたこともあります。金銭で解決する方法もありましたが、今後もそういったことは想定されるなかで、中国の法治レベルはどうなのか、実験として裁判で戦ってみようと考えました」

 結果として和解となり、支払金額は最小限で済み、この様なケースでの司法判断に安心を得たという。その施設というのが2012年10月、北京に開設した小規模多機能型施設「礼愛老年看護服務中心」だ。マーケティングショールーム、情報受発信、介護士養成OJTの役割を担うが、このような形になったのは、実は最適な物件が見つからなかったからだという。

「10床しかなく、3階建の物件はバリアフリー的にも最悪です。ならば逆に小規模であることを活用して、様々な機能を持たせようと“実験”したわけです」

 中国も高齢化を迎えつつある一方で、介護分野のインフラは未整備。そんな状況のなかで、同施設は大きな注目を浴び、行政関係者の訪問、メディア取材も頻繁に受けることになった。翌年には上海に、続いて成都、泰州、南通と介護入居施設を開設および準備を進めている。さらに現法2社との合弁手続きが進行中のようだ。

 そして2016年、バンコクに念願の介護入居施設を開設したが、この際に中国での成功事例が、タイにおけるリエイの評価を高めてくれたという。

「当初中国で認められたのは、それ以前にタイで介護士養成と在宅介護事業をやっていたという実績が大きかったからです。そして今、中国で成功したという実績が、タイでの展開の後押しをしてくれている。それは、『日本の企業にとってビジネスをするのが難しいと言われる中国で足場を築いている』という信頼感ですね」

 現在、20名の定員に対して7名が入居。集客はWebや現地メディアへの広告でも行うが、病院関係者を通じての入居が多く、関係者間に施設の存在が広まってきている。価格は月5~6万バーツと高級病院より若干低めに設定。そこそこの所得はあるが入院費を節約したい、または病院関係者の紹介による、病院より施設のほうが適切と判断された高齢者が主な入居者となっている。


■現地の伝統習慣を尊重しつつ、日本的介護サービスを提供

 海外における日本的な介護サービスが支持されている理由はなんだろうか? 椛澤氏は大きく4つを挙げる。まずは“組織的運営”。日本ではチームで働き、入居者の様子、行った処置などをスタッフ全員が共有するという風土がある。それがよりよいサービスに繋がるわけだが、中国・タイにおいてはこういった概念がないそうだ。

 2つ目は“高度な衛生管理”で「例えば、中国の人に『部屋をキレイにして』というと、周りのゴミを拾うだけ。これでキレイと言えるのか? という結果になります」という。そして3つ目が“人間の尊厳の尊重”、4つ目が“日本特有のデリカシー”。驚くべきことに中国では認知症高齢者には腕を縛るという措置が普通となっている。

「日本的介護では、一人の人間として見守りをもって接します。そこが中国の認知症利用者の家族から喜ばれ、大きな評価を受けています」

 加えて、介護の現場でより力を発揮するのが、デリカシー、目配り、気配り、心配りといった、日本人ならではのきめ細やかさだ。逆に言えば、こういったマニュアル化しづらい部分を現地のスタッフに教え込むのは、至難の業であるということ。これに関しては、繰り返し根気よく教え続けるしかないという。

 逆にローカライズすべき点としては、介護サービスのコンセプトは日本をモデルとしつつ、現地に根付く伝統や習慣を尊重することが重要だという。例えば日本では、認知症高齢者に対して、幼稚園児に接するかのような応対をするケースが見受けられる。一方、いかなる場合も目上の人への敬愛が定着しているタイでは、このような応対はNGとなる。また、タイ人は人前で叱られることを極端に嫌い、頭を撫でることは失礼にあたるといった細かな部分にも配慮があるように、タイ以外の国でも同様の配慮が求められるという。

■大切なのは現地でのパートナー選びと契約内容

 同社がタイや中国に進出したのは、まだ“日本ブランド”が通用した時代。現在、アジア諸国が急速に経済発展を遂げるなかで、日本の立ち位置は変わりつつあるようだ。

「日本の介護ソフトの賞味期限は中国であと3年、タイで5年くらいでしょうか。日本のノウハウへの需要はありますが、日本に対して見上げるような意識は残念ながらなくなってきています」

 その一方で、「上目線で出向いて足元をすくわれるよりも、フラットな目線で謙虚に細心かつ大胆な気持ちで臨んで行くほうが、かえっていい結果をもたらすかもしれない」とも、椛澤氏は話している。そこでより重要度を増すのが、現地でのパートナー選びだ。

 同社の場合は幾つかの幸運に恵まれたという独資会社設立後の歩みであるが、コネクションは無いが、単独決済できる独資で進出するのはかなり厳しい。同氏が重要視するのが、提携先のトップとの関係だ。

「人間関係を築き、誠実であるかどうかを見極める。相性の良さも重要です。そして出資比率。我々は相手がどんなに大きな企業であっても出資比率50%以上を死守しています」

 したたかな商才に長けた外国人とのビジネス提携においては、そこをよりシビアに考える必要があるというわけだ。また、同社の成功の根底にある、あきらめない精神も忘れてはならない。「海外市場に新規参入すれば壁にぶち当たるし失敗もする。それを“実験”と考えて前進してきた」という姿勢が、同社の成功に繋がっている。アジアで人材循環を視野に人材育成を行い、その労働力を日本へ。経験を積んだ後、母国にて高給スペシャリストとして活躍してもらうという、先を見据えた仕組み作りに、早い段階で取り組んでいるのも同社の強みだろう。

 マーケット事情が目まぐるしく変わっていく時代においては、10年、20年先の世界における介護事情を視野に入れ、ビジネスプランを思い描く必要がありそうだ。
《尾崎美鈴/HANJO HANJO編集部》


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