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【川崎大輔の流通大陸】“プレモーターリゼーション期”のベトナム自動車市場が伸びる理由

2017年4月18日(火) 22時58分(タイ時間)
ハノイの中古車ディーラーの画像
ハノイの中古車ディーラー
《撮影 川崎大輔》
展示されている中古車の画像
展示されている中古車
《撮影 川崎大輔》
ハノイの中古車ディーラー(2)の画像
ハノイの中古車ディーラー(2)
《撮影 川崎大輔》
ベトナムの街中整備工場の画像
ベトナムの街中整備工場
《撮影 川崎大輔》
ハノイの街中の画像
ハノイの街中
《撮影 川崎大輔》
ホーチミンの市場周辺の画像
ホーチミンの市場周辺
《撮影 川崎大輔》
タイをはじめとした周辺国に比べまだ規模が小さいベトナムであるが、アセアン市場全体の伸びを大きく上回る2ケタ成長となっている。ベトナム新車市場の拡大の後には中古車・アフターマーケットの活性化が期待できる。

◆30万台超え、急成長するベトナム自動車市場

ベトナム自動車工業会(VAMA)によれば、ベトナムでの国産(VAMA未加盟メーカーを含む)と輸入車の2016年の自動車販売数は、前年比24%増の30万4427台となった。ボリュームはインドネシアやタイと比較すると少ないのは事実だが、近年の成長率はアセアン諸国随一だ。

乗用車は27%増の18万2347台、商用車は19%増の10万6347台となった。その他1万5733台が特別車両だ。生産に関しては、国産のノックダウン(CKD)生産による国産車が22万8964台。対前年比で32%の急増だ。輸入車(CBU)が7万5463台になる。

経済成長の加速につれて、自動車を購入する中間層はますます増えるとみられている。ベトナム市場の魅力は約9000万人もの巨大な人口、更に国民の所得水準の向上による中間・富裕層の拡大によって消費市場の成長が大きく見込める点である。

一般的に国民1人あたりGDPが3000ドルを超えるころ、そして人口1000人あたりの自動車保有台数でみると60台へ到達するあたりからモータリゼーションがはじまると言われている。

ベトナムの1人あたりGDPは2068ドル(2015年)、1000人あたりの保有台数は25台ほどで、まだモータリゼーションに入っていない「プレモータリゼーション期」と言える。一部の高所得層のみが自動車を所有し、それより低い所得層での保有がはじまらない状態だ。したがって高所得層による自動車購入がベトナムの自動車市場拡大の要因となる。一方で、経済が急成長して一定の水準を超えると、急速に中間層に富の分配をもたらす。これまで自動車を買えなかった所得層の人々が生まれて初めて自動車を購入する。今のベトナム自動車市場の急成長は、経済の急成長で所得が向上した中間層が自動車を購入しているためである。今後も急速に自動車保有台数が拡大して一気にモータリゼーション期に突入する可能性がある。

◆ベトナム中古車流通市場

自動車販売台数の急増、国民の所得水準の向上に加えて、以前よりベトナムの中古車の販売価格が割安になっていることから、中古車市場が活況を呈している。最近UBERのようなスマートフォンアプリを使用した配車・予約サービスが活性化していることも中古車市場の拡大に影響を与えているようだ。例えば自動車を保有したらUBERに登録するだけで、空き時間にドライバーとしての収益を獲得できる。これが唯一の収入源である必要はないが、このドライバーの仕事だけでも十分な収益を期待できることから、中古車需要が高まる。

ベトナム中古車流通で主導権を握るのは中古車販売店とブローカーだ。中古車販売店には、「国内メーカーと低価格輸入車の売買」と「輸入車専門」の2種類の販売店が存在している。

仕入れ方法(輸入車専門店を除く)は、エンドユーザーが直接売りに来るか、知り合いネットワークを頼り買いに行く方法が主流だ。また、在庫車両は業者間で融通することもある。中古車販売店に展示されている中古車にはプライスボードは掲げられておらず、走行距離や修復歴も提示されていない。買い手によって値段が異なり、スタッフとの交渉が必要になる。「現状渡し」が普通で、保証は販売店などによって独自に設定されている。まさに30年ほど前の日本の状況がそのままベトナムで再現されていると言っていい。つまり、情報量が少ない購入者は弱い立場に立たされているというわけだ。

最近ではウェブサイトを活用して中古車の売買を取り持つ中古車販売店やブローカーが増えてきているのも目立つ。このウェブサイトが中古車販売店やブローカーのための仲介ビジネス(コミッション)になっている。形式上はB to Cを取っているが、実態はほぼC to Cサイトである。

B to Cの場合、中古車販売店やブローカーは多額の運転資金を必要とする。中古車をユーザーから買い取る必要があるためだ。しかし、C to Cではその必要はない。更にC to Cであれば自動車取得税を免れることができるというメリットがある。となれば、同じ中古車を販売する場合、まじめに販売をしている中古車販売店は価格競争力で勝ち目がない。取得税率分高い価格設定になってしまうためである。このようなウェブサイトの活用方法がベトナムで増えてきている。

◆その他の中古車流通ビジネスのプレーヤー

その他のプレーヤーとしては、新車ディーラーと個人がいる。新車ディーラーは、ベトナムではトヨタ、BMW、フォード、メルセデスが中古車ビジネスに着手している。

例えばトヨタモーターベトナム(TMV)の取り組みとして、認定中古車制度をスタートしている。タイなどで認知されている“Toyota Sure”(トヨタの認定中古車ブランド)のベトナム版の取り組みだ。バリューチェーンの強化、販売店収益向上、中古車市場のリーディングメーカー、新車からの下取り(商品車確保)によって、顧客リレーションを強化させ、安心して高品質な中古車購入ができる販売店作りを目指す。

ベトナム国内のTMV認定中古車販売店は数店舗だが、トヨタのレギュレーションに沿って、屋内・屋外の展示場を備えて価格、走行距離、保証などすべてを開示している。ベトナム北部ではトヨタミーディンが先陣を切り、南部はトヨタイーストサイゴンで取り組まれている。

私が訪れたトヨタイーストサイゴン認定中古車店では、プライスボードが全車に掲げられた高品質なトヨタ車両が展示されていた。在庫は『イノーバ』、『フォーチュナー』、『カムリ』が合計20台、スタッフに確認すると月10から15台ほど販売されていた。しかし自社の下取り・買い取りだけでは良質な中古車が集まらない。業者などから良質なトヨタ車を買い集めてもなかなか台数が足らないという大きな課題もあるようだ。

中古車ビジネスに着手しているトヨタとは別メーカーのディーラーでは、認定中古車という取り組みは行わず中古車の下取り、及びその販売というビジネスを行っている。一方で営業スタッフの中古車の横流しが通例となっているのが課題のようだ。

例えば自動車の乗り換えをした時、新車ディーラーや中古車ディーラーに紹介された事業者に持ち込むが、紹介をした営業スタッフが事業者からインセンティブをもらっている。新車ディーラーの中古車ビジネスとしてしっかりと立ち上がっていないというのが実情だ。

ほかにも純粋な個人間売買という形態もベトナムには存在している。友人や親せきとの間で購入者を募る場合が最も一般的だ。しかし、全く知らない他人へ販売するという形は現地でヒアリングした中ではまだ根付いていないようだ。理由として、名義変更の手続きが煩雑であり、更に現金で一括した支払いができる層が少ないというのが現状だ。

◆跳躍するベトナム中古車市場

ベトナムの中古車市場は日本の30年以上前と同じ状況だ。ただ、1つ異なる点はインターネットが存在するということ。ベトナムの中古車ウェブサイトを活用したビジネスが黎明期を迎えていると言える。更に、中古車市場の活性化に伴って、中古車の査定サービスや、銀行ローン、自動車保険のコンサルティングサービスなど、自動車関連サービスも活発になっていると聞く。

健全な中古車流通は、新車の販売拡大につながり、その国の自動車流通全般が良くなっていくという大きな魅力がある。ベトナムの中古車市場が長期的に拡大していく方向性は変わらない。ベトナム国内の1000人あたり保有台数は日本の約600台に対してまだ25台前後である。2016年のベトナムの中古車市場は30億米ドル(約3070億円)規模に上るとみられており、自動車普及率が拡大する余地はまだまだ大きい。

ベトナムの巨大な消費者市場を鑑みれば、近い将来、中古車市場の跳躍の時期が必ずや訪れることは想像に難くない。

<川崎大輔 プロフィール>
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。
《川崎 大輔@レスポンス》


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