日々全国を歩く中、近年、様々な場面で地域間の格差が拡大していることを痛感しています。自治体の規模や財政もさることながら、地域の活性・不活性に直結する地域間競争を勝ち抜く力の差、その基礎となる意識や意欲の面でも差は目に見えるかたちで表れてきています。
明確なビジョンや戦略に基づき、着々と結果を出す地域ではすでに民間企業レベルの意識とスピード感を持ち、切れ目なき仕掛けと効果的プロモーションを行い、地域にヒト・モノ・カネ、情報やチャンスを呼び込む一方、自分たちがどこに向かうべきか、何をすべきかが見えていない地域では未だ、戦略なき20世紀型モデルから抜けきらないでいます。その言い訳は大抵「資源がない」「人がいない」「金がない」ですが、そのセリフは今できること、やるべきことを全てやり尽くしたものだけが言えるエクスキューズです。
今回はこの地域観光行政の格差について考えます。
■観光行政の課題と今、求められるべき役割
まず観光行政の役割とは何かですが、その主語となる「地方公共団体」の役割は地域観光のプレイヤー(民間事業者)の側面的支援であり地域の環境整備ですが、その手足となり施策を実行する組織はこれまで「観光連盟・観光協会」に委ねられてきました。地方創生総合戦略の中ではこの二者の能力が問われており、その機能、役割を担うものとして新たに日本版DMOという組織の設立も各地で始まっています。
いずれにしても観光行政がまず行うべきは地域の知名度・認知度アップであり、そのためのシティセールス・プロモーションですが、多くは効果的な情報訴求ができないだけでなく、それと両輪であるはずの地域の受け入れ態勢は後回しとなっています。結果として話題のスポットがあっても地域の中で回遊を促せず、施策に投入した金と手間の割に観光消費額は低空飛行ということも少なくありません。
観光開発の基本はまず第一に客を惹きつける地域の魅力・価値の発見であり、その発信により訪れる人の受け皿づくりで、その両方が伴ってはじめて観光地としての発展の道筋が引かれます。
しかし、そのイロハのイ、現在の市場ニーズに照らした地域資源の発掘や評価ですらほとんど行われず、観光協会のホームページやパンフレットの多くは30年前と同じ画像や文言を平気で載せています。
ですが多くの場合、価値は普遍ではなく、人やその時の気分等によっても異なる相対的なものです。地域資源の評価も時代により刷新が必要です。また知名度・認知度のアップには情報接触度のアップが欠かせませんが、そのためには他と決定的に差別化された地域の価値・魅力の明確化が必要となります。
ターゲットや情報拡散のタッチポイントの絞り込みしかり。メディア活用やプレス対応、素材提供、情報接触を観光消費へ誘導する検索誘導や効果的なコミュニケーション手法など、地域観光の課題を挙げればキリがありません。
またこれは地方の小さな町村でもきちんと対応している地域もあれば、政令市であっても全く理解していない地域もあります。観光行政の優劣は規模の大小の問題ではないのです。
今回はその中で一つ、今すぐにでも取り組める地域の課題を先進的な地域の取り組み例にフォーカスしてみましょう。
■二次交通の不足は言い訳にならない 不便でも観光誘発、回遊高める
地域で取材やリサーチをしていてストレスを感じることの一つは、目的地へのスムーズな移動ができないことにあります。しかし、その原因は二次交通の不足というより、そこに行く方法が分かりにくいことにあります。
たとえば、最近は観光案内所に行けば、観光マップなどの地域の観光情報は充実しており、そこに不足を感じることは少なくなっていますが、観光案内所のスタッフの意識や能力には大きなバラツキがあります。
案内所のスタッフに「〇〇に行きたいのですが」と聞いてもその場所のことを知らないなんてことはザラで、別のスタッフに「〇〇に行きたいんだって、知ってる?」とか聞く始末です。そこから親切にいろいろ調べてくれる案内所もありますが、自分で調べた方が早く求める情報に辿り着けるケースも少なくありません。
情報リテラシーの問題は個人と組織両方の問題がありますが、不便な地方において時間は特に貴重です。モタモタしていると乗れるはずだったバスは発車、次のバスでは帰りの電車に間に合わなくなるということもあります。能力のある人材の確保や育成に地域はもっと力を入れるべきです。
私は一般の観光客ではないので、離れた場所を複数効率的に取材する場合等は基本タクシーを使いますが、そこまでして行くべき価値があるかは当然勘案しますし、基本的には観光客目線で公共交通を利用しその利便性を見ます。
よく観光パンフレットやホームページにはお勧めの観光コースが載っていたりしますが、車で何分など所要時間が示されるだけで多くの場合、そこに行く具体的な方法は示されていません。「後は良きに計らえ? 殿様か」と突っ込みたくなりますが、でもそんなことで観光が誘発されたり、地域を回遊させられるわけがありません。
近年は地域を周遊するコミュニティバス(CB)も増えていますが、その先に思い至る地域は決して多くありません。パンフレットには「おもてなし」を謳っていても、訪れる客の立場に立つ視点や発想はないのが常です。
一方、全国を回っている中で観光行政に優をつけられる地域は年々増えています。その中の一つ、兵庫県姫路市はメディア対応を含め非常に高いレベルにあります。
たとえば、ハリウッド映画の「ラストサムライ」のロケ地としても知られる書寫山圓教寺へ行きたいと案内所を訪ねるとすぐにはがき大の小さなメモを取り出し、その記載内容を示しながら姫路駅から書寫山の入口となる書写ロープウェイ行のバスの時刻表、バス乗り場の番号と所要時間、お得なセット券の案内とその売り場を教えてくれます。
これにより次のバスが出るまでわずか5分でもすぐにお得なチケットを購入、目当てのバスに乗ることができます。渡されたメモには帰りのバスの時刻表も印刷されており、ストレスなく時間を有効に使い、計画的に充実した取材リサーチができました。戻って記事にする際もメディア対応、素材提供の全てにおいてスムーズな作業を行うことができました。
また、こうした取り組みは規模の大小によらずできることです。滋賀県高島市では近年人気が高まり、年間13万人を集める「メタセコイア並木」目的の観光客向けに列車とバスの乗り継ぎが一目でわかる「JR湖西線とコミュニティバス連絡票」を作成しています。
駅の観光案内所で提供されており、帰りの電車の時間を計算しながら効率的に地域を廻れるため、予定になかったご当地グルメや温泉も満喫。これらのネタを合わせ技にしてメタセコイア並木の魅力を紹介した記事は人気を博しました。
さて、観光行政の優劣が地域の命運を分ける時代、あなたのまちの観光行政は地域をアゲてくれる存在でしょうか? 今一度、そのあり方をチェックしてみてください。
●水津陽子(すいづようこ)
合同会社フォーティR&C代表・地域活性化・まちづくりコンサルタント。地域資源活かした地域ブランドづくりや観光振興など、地域活性化・まちづくりに関する講演、企画コンサルティング、執筆を行う。2014年地方創生法に関連し衆議院経済産業委員会に参考人出席。著書に『日本人だけが知らないニッポンの観光地』(日経BP社)などがある。
地域を“アゲる”観光行政、“サゲる”観光行政
2017年12月4日(月) 08時38分(タイ時間)
《水津陽子》
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