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「タイ在留邦人の危機管理」FILE No. 13 番外編 それは被害者の霊か? それとも己の弱さか?(2) 戸島国雄

2019年5月2日(木) 12時00分(タイ時間)
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それは被害者の霊か? それとも己の弱さか?(2) 戸島国雄
鑑識任務36年の中で起きた不可思議現象-2

―― 手元には常に線香、粗末にできない霊の存在 ――


 死体(遺体)と正面から接すれば、何を訴えようとしているのかが分かる。自殺と思わしき死体を解剖に回す。詳しく調べていくうちに他殺が疑われる。そんな死体は、解剖前には苦しそうな表情をしていたのが、終わるころにはすっかり穏やかになる。そんな被害者に手を合わせて解剖を終え、他殺として捜査を開始する。そんなことが幾度となくあった。

 若いころ、刑事になる前の2年間、牢番を経験した。夜の留置所では眠っている被疑者の寝言を全て記録、取り調べで供述していない内容があるか否かを確認している。中には、夢の中に殺めてしまった相手が出てくるのであろうか、大きな声で一晩中「ごめんなさい」と繰り返す被疑者もいる。それはあくまでも夢であって、霊ではないだろう。しかし手をかけてしまった被疑者にとっては、夜な夜な夢に現れる幽霊なのだ。

 タイでも不思議な現象を何度となく体験した。例えば2004年、インド洋大津波で何千人という被害者が出た、南部パンガー県のカオラックだ。津波発生当初から3カ月もの間、身元調査として来る日も来る日も遺体に接していた。夜になるとよく、遺体安置所となっている寺院の火葬場辺りから運河を伝って海の方に飛んでいく火の玉を見た。小さな子どもが頼りなげに乗る自転車のライトのようにフラフラとした飛び方で、一緒に任務に携わっていた何人もの警官も一緒に見ている。

 霊が出るときは「冷やりとする」とよく言われるが、これまでの体験ではむしろ逆だ。髪を乾かすドライヤーを吹き付けられるような生暖かさを感じる。そんなときは見えない相手に、手を合わせるようにしている。また、霊が存在するとすれば、それは電気系統に影響を与えるようだ。治安関連や危機管理を主題とした講演会の依頼があり、可能な限り受けている。以前はよく殺人に絡む話をしたものだが、そんなときに限ってマイクの音が途切れ、空調が止まり、会場の電気が消える、というトラブルに見舞われた。繰り返し起きるため、最近はその手の話を口にするのを控え、講演会用に揃えていた関連資料も燃やしてしまった。

 信号もあって標識もあって見通しも良いのに、いつも事故が起きる場所がある。事件が起きた心理的庇護(ひご)物件にはやはり、後の入居者が居付かない。事故が事故を呼び、霊が霊を呼ぶ。霊といってもオカルトのそれではなく人の魂であり、粗末にすることはできない。我々鑑識捜査官は常に、手元に線香を用意している。

戸島 国雄
元警視庁刑事部鑑識捜査官 元似顔絵捜査官 タイ警察・警察大佐
《newsclip》


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