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〈スペシャリストに聞く〉森 享子 氏 小児精神科専門 バムルンラードインターナショナル病院

2020年6月16日(火) 22時10分(タイ時間)
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森 享子 氏 小児精神科専門 バムルンラードインターナショナル病院
バムルンラードインターナショナル病院
コーディネーション医
森 享子 氏(小児精神科専門、医学博士、日本小児科学会専門医、指導医)

その1 専門医から見たタイ生活のメリットとデメリット

「性格・性質」から「障害」という診断へ


 小児精神科という専門分野において、子どもたちを取り巻く医療環境は過去20年で大きく変化しました。以前は「発達障害」や「学習障害」という言葉が広く知られておらず、そのような障害に該当すると思われる子どもたちであっても、「落ち着きのない子」「乱暴な子」「変わった子」「勉強が苦手な子」といったような、何となくその子の性格・性質として捉えられてきました。

 現在は発達障害や学習障害への認識が高まったことにより、お子さんを連れて専門科を受診される親御さんたちが増えています。学校から受診をすすめられたというケースもあります。障害自体が以前と比較して増えているか否かは議論の余地がありますが、医療現場では明らかに受診が増えており、日本国内では予約が数ヶ月待ちということもよく耳にします。受診が増えればその分だけ診断名のついた子どもが増えることになります。

 核家族化や共働き家庭の増加などの家族様式の変化、教育競争の過熱という現実などから、子どもの実際の発達年齢と、求められる行動水準や学力との間にアンバランスが生じ、子どもと親の双方に過剰な負担がかかっていることも、現代社会における課題のひとつではないかと思います。


障害と診断されずに成長すると?

 障害であっても障害と診断されず、適切なサポートを受けられないまま成長するとどうなるのか? それは子ども自身の持ち前の力と、周囲からの評価をどのように捉えていくかで、大きく異なってきます。長所も短所も自分の性格・性質として前向きに受け入れて、その上で自分の長所を伸ばす方もたくさんいます。歴史的な業績を残した偉人の中に、発達障害の人が少なからずいるということは、よく知られた事実です。

 一方で、ネガティブ面の底上げだけに力を注ぎ、長所を伸ばす機会を十分に持てなかった場合、自分に自信が持てなくなることがあります。「どうせ自分は出来ない、何が好きなのかも分からない、何も楽しくない、周囲から評価もされない」などと感じ、将来的にうつ病、ひきこもり、暴力や非行につながるといった二次障害を起こす危険性があります。

 心の問題というのは、どこからが正常でどこからが障害なのか、線引きが難しくもあります。悩みを抱えたり難しさを感じたりするとき、子ども自身が「自分が好きなことを頑張ろう」と前向きに捉えるか、「自分はどうしてこんなに駄目なんだ」とネガティブに捉えるかは、本人の性格に加えて、家庭や学校など周囲の理解と対応、支援の有無によって大きく変わってきます。同じ問題であっても、その子の置かれた環境によって、簡単に解決できる場合もあれば、逆により複雑な問題になってしまうこともあるのです。

 メンタルヘルスは世代で繋がっているともいわれます。考え方や性格は遺伝的に親と似る傾向にあります。感情や思考に影響する体内物質のバランスなどの身体的な側面も親からの遺伝の影響を受けます。持って生まれた親からの遺伝子に加え、その性格・性質を持つ両親の元で育つことにより、親の生活習慣や価値基準等が、子どもの発達に影響を及ぼすのです。

タイに住むということ

 子どもの発達やメンタルヘルスの問題は、日本でもタイでも基本的な部分では変わりません。一方で「タイに住む」ということは、メリットもデメリットも存在します。在タイ期間や通う学校など、それぞれ置かれた環境によって差があり一概には評価できませんが、海外に住む最大のメリットはやはり「異なる文化」に触れられることだと思います。タイに限ったことではありませんが、日本と異なるさまざまな文化、価値観、考え方に触れると同時に、海外から日本を見ることで、新しい視点やより客観的な考えに気づくことがあります。思考や価値観の幅を広め、柔軟性を高めるチャンスとなるのです。

 多文化な生活の中で「自分は、様々な選択肢の中で、どうありたいか」と、自身のアイデンティティについて思いを巡らすこともでてきます。これは、海外であるからこそより意識しやすい点だと思います。このように子どもの時期に海外生活を体験することは、その子の今後の人生においてさまざまな可能性を拓く良い礎となりうると考えています。

 一方、デメリットも少なくありません。まず環境や生活習慣の変化です。これは、子どもだけではなく家族全体が直面する課題で、未知のものと出会う楽しさや興奮と同時に、戸惑いや不安もあります。特に、新たな環境に親自身も生活の基盤を整えることに試行錯誤の中、子ども達をサポートしていくことは大変なことです。相談したり手伝いを頼める祖父母や親しい友達も近くにおらず、心細さや不安を感じる人も少なくはないでしょう。

 次に、言語の問題があります。日本人学校ではなくインター校や現地の学校に通う場合は、特に思うことが上手く伝えられなかったり、授業が理解しにくかったりと、言語が壁となり大きな負担がかかることがあります。

 日本人コミュニティの狭さも、ストレスの一因になり得ます。海外に出ると開放的な気持ちになり、同郷のよしみで親しい友達を作りやすい、という良い側面があります。一方で、バンコクの子育て社会では、誰かが誰かとどこかでつながっているということがよくあります。このような狭い社会の中では競争原理がより働きやすくなりがちです。

 さらに、タイに特徴的な生活環境が挙げられるでしょう。高温多湿の気候、大気汚染、道路交通事情、日本とは異なる治安状況など、子どもたちが気楽に散歩や公園での外遊びをしにくい状況にあります。学校以外で遊ぶときはどうしても室内となったり、親の目が届く範囲内でしか遊べなかったりと、かなりの制限がかかります。このような生活環境も、子どもの心と体の成長に影響を与える可能性があります。

限られた相談窓口

 タイで悩みや問題を抱えて医療機関などに相談したくても、「適当な相談窓口が見つからない」「相談してうまく解決につながるか分からない」という障壁が立ちはだかります。日本人の文化背景も十分に理解ある専門家による相談機関を探すことは簡単ではありません。また、通訳を通じての相談であると、微妙なニュアンスが上手く伝えにくく、満足する結果になりにくいという問題もあります。

 在留邦人の多い国では、日本人による診療活動がある程度許可されている国もあるのですが、タイでは政府によって認められた日本人の資格保有者はごく少数です。多くの日本人が暮らしているにも関わらず、日本人による子ども専用の相談窓口が限られているのが実情です。


森 享子 氏(医学博士、日本小児科学会専門医、指導医)

 1996年徳島大学医学部卒業。岡山大学医学部付属病院、関連病院で研修。豪州アデレート母子病院小児科勤務、英国でキングスカレッジ児童青年精神科修士を取得し、子どものメンタルヘルス研究や在留邦人子女の相談活動に携わる。帰国後、大阪府立母子保健総合医療センター発達小児科などを経て、東京都杉並区で子ども心と育ちのクリニックを開業。2018年からバンコク在住。

無料相談室:毎週火・金曜日、10-11時 完全予約制 1回15分 連絡先02-011-3388(日本語カウンター)

Bumrungrad International Hospital
住所:33 Sukhumvit 3, Wattana, Bangkok 10110
電話:0-2066-8888(英語にて24時間対応)
日本語カウンター:0-2011-3388(午前7時―午後7時)
Eメール(日本語):infojapan@bumrungrad.com
ウェブサイト:https://www.bumrungrad.com/jp
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