日系企業がこれまで地場業者に対して抱いていた不信は、工期の遅れ、劣悪な建材の使用などにあった。納期の遅れは特に深刻で、「予定どおりに機械を取り寄せたのに、搬入先の工場がまだ完成していない」という事態を引き起こす。建材も完工当初は見た目が良かったものの、ほんの数年で劣化が目立ち始め、そのうち建物自体の耐用年数が不安視されるようになる。
建設現場をのぞいてみれば、「セメントはそこじゃなくて、あそこで練れば作業が早いだろう」などと、いかにも要領が悪い作業が目に付き、評価が一段と下がる。このような事情の中、日本での付き合い、決済方法などが相まって、日系企業はほとんどが日系建設会社に発注してきた。タイには外資系の建設会社が100社ほど進出しており、日系大手ゼネコンは全て出揃っている。
タイの地場の建設会社が実力を伸ばしてきているのは、未だ続く工場建設ラッシュが理由の一つとして挙げられる。自動車関連、電子機器関連とさまざまな産業のニーズに誠実に対応していくことによって、技術・品質を高めていった。日本からの進出を見ただけでも、日系メーカーとそれを支えるサポートメーカーの進出ラッシュが一段落し、新規物件は減っているものの、増改築は絶え間ない。今後、第2次サポートメーカーの進出ラッシュが始まれば、業界はさらに活気づく。
日本人には非効率と思われる施工は、実は常夏で湿度の高いタイという国になじんだものだったりする。セメント一つを取ってみても、地場業者は特性をよく理解しており、高温の中での扱いに慣れている。柱などにビニールシートを巻いた建設中のビルを目にする機会が多いが、これは急激に乾かすと耐久度が低下するというセメントの欠点を補う技術の一つで、日本では見られない。わざわざ面倒な場所で作業をしているのも、意外な理由があったりする。
日本と比較した場合、タイは全体的に地盤が弱い。工場が集中する県で見た場合、バンコク近隣のサムットプラカン県は30メートルほど、東部ラヨン県では10メートルほどのパイリングが必要となる。
また、空調機(クーラー)を1年に2〜3カ月しか使用しない日本と違い、タイは付けっぱなしの状態が続く。ブランド力のある高品質な設備を設置しないと、すぐに寿命が尽きたり、絶えず故障したりというトラブルを招く。
地場業者が今後さらに力を付け、日系工場をはじめとする外資系企業からの受注を増やしていくには、まずマネジメントの強化が必要だ。タイになじんだ作業方法があったとしても、やはり無駄な部分があることは否めない。日本では当たり前の5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)や3G(現場・現実・現物)からはじめる従業員・ワーカーの教育を怠らず、最適な建材の使用を徹底し、進捗状況を把握して納期を守るというマネジメントが、技術・品質の向上と信頼に結びつく。
先進国では当然という認識の、国際規格の認証取得もマネジメント強化の一策となりうる。タイでは品質管理の国際規格ISOのほか、タイ工業規格研究所(TISI)のQSMEという建設業者向けの認証がある。また、Young Creative Architect Contest (YCAC)と呼ばれる若い技術者を養成するためのプロジェクトがあり、多くの企業が参加することによって将来的な業界発展に寄与することも重要だ。